視力がね
「最近どうも見にくくてさ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「自分の容姿が?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「いや、そっちの醜いじゃなくてさ」
「うん」
「ん? ってひどくないか。今の発言」
「すごい時間差。気づくの遅いわよ」
「まったくだ。危うく聞き逃すところであったわ」
「聞き逃した方が幸せだったかもね」
「それもまったくだ。知らぬが仏。不都合なことは知らぬままホトケになりたいものだ」
「うーん、流石にちょっと言いすぎたわ。謝罪するわね」
「そうか。では、1000ゴールドで手を打とう」
「守銭奴が。前言撤回よ、あんたは心も醜いわ」
「当然だ。アタシをなんだと思っているのだ?」
「暇人」
「っー……今のすげぇな、たった二文字なのにかなり効いたよ」
「え? ホントに暇人なの?」
「カマかけおったな、この女狐めが」
「狐? まあ、確かに耳はそれっぽいわね」
「何の話だ。というかこんな暇人に付き合うようなお前も、立派な暇人だろ」
「そうよ」
「ぬぬ、鋼メンタルめ」
「鉄は打たれれば打たれるほどに強くなるのよ」
「このマゾヒストが。お前のような奴は鉄粉に帰しても平然としてそうだな」
「誉め言葉として受け取っておくわ。で、何の話だったかしら?」
「醜い。否、見にくいという話だ。最近どうも視力が落ちたようでな」
「メガネ買えば」
「ああ……まあそうだな」
二人は喫茶店をあとにした。