必殺技をさ
「あれだな。必殺技とか使えるようになりたいな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「いい歳して恥ずかしい奴だな」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「必殺! ……必殺だな今の一言は。やられたよ、完全にアタシの心折れたもん」
「それはなにより、ニカッ!」
「歯を見せて笑うな、気持ち悪い」
「じゃあ鼻の穴を見せよう」
「やめろやめろ! 誰得だ、需要ねぇよ。恥ずかしい奴だな」
「まあそういことさ。さっきのお前の発言はそれくらい恥ずかしいっていう、ね」
「そんなにか? お前は必殺技とか憧れないのか? 仮にもエルフだろ」
「仮にとも何だ。あと、お前の中のエルフの定義どうなってんだ」
「細かい奴だな。エルフと言ったらあれだろ? ……えーと」
「あ?」
「……」
「……」
「……ああ、そのとがった耳とか!」
「だいぶ悩んでそこぉ!? お前のエルフのデータベースの薄っぺらさよ」
「いや、ごめん。マジで思い付かなかった。エルフの特技って何さ?」
「いやいや。そりゃお前……」
「……」
「……何だろう?」
「悲しくならないかい?」
「いや、悲しいわ。何で私がこんな惨めな気持ちにならんといかんのかね」
「知るかよ。まあ、フォローをするなら、背中の羽が見る人によっては綺麗に見えたり見えなかったりするぐらいじゃね?」
「……すっげぇフワフワしたフォローをどうも。第一、その必殺技とやらは誰に向けて放つのだ? お前にとっての敵って何よ?」
「ん? そうだな……」
「おう?」
「……」
「……」
「……社会……とか?」
「……一緒に資格の勉強するか」
二人は喫茶店をあとにした。