塔をさ
「あれ知ってる? 隣町の塔」
角のとがったデビルの少女が言った。
「とうとう、塔の話しか?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「何かあれ、パワースポットらしくてさ」
「おい」
「何か塔の中に……ん?」
「ん? じゃねぇよ。触れろよ、私の洒落に」
「……触れない方がお前の尊厳を踏みにじらなくて済むと思ってね」
「ふざけんなよ。踏みにじれよ」
「やだよ、触れたら火傷するだろ。お前が」
「もうしてるだろ。きつね色に焼き上がってるよ」
「消し炭の間違いでは?」
「お前、塵も積もればな? ……あれだからさ」
「出てこねぇのかよ。大丈夫かよ?」
「スピリチュアルにすがりつかんとする、お前よりはな」
「ディスりと同時に話を戻したな。流石、鋭角耳」
「願わくば鈍角耳になりてぇよ」
「初耳だな、そんな耳は。というかコンプレックスだったのか?」
「当たり前だろ。お前の目付きの悪さ並みにコンプレックスだよ」
「勝手に他人のコンプレックスを確定しないでほしいな。せめてこの角だろ」
「え? それ作り物じゃないの?」
「バカ言えよ。歴としたアタシの体の一部だ」
「そいつを露出させているとは、とんだ変態だな」
「デビル一族を敵に回したな。お前に明日はないぞ」
「明日バイトなんで、もともと明日なんてないも同然だよ」
「悲しいこというなよ。そうだ元気をもらいにパワースポットである塔に行こう!」
「いや明日バイトだから、遠出はパス」
「えー、行こうぜ。パワーもらいに」
「いや、パワーっていうのはさ、他者からもらうものじゃなくて、自らで生み出すもんだから」
「そ、それは……そうかもしれんな」
「だろ? そういうことよ」
「ふーん。なるほどね」
「そうそう……あー何か不思議なことが起こって、バイト先爆発しないかなー」
「お前もスピリチュアルすがりじゃねぇか」
二人は喫茶店をあとにした。