雷にさ
「この前、雷に撃たれてさ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「はい、ダウト。だとしたら生きてるはずがない」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「いや物理的にじゃなくてさ、こう……青天の霹靂みたいな感じ。唐突にアイデアがズドンとね、降ってきてね」
「いや、お前。それはなしだろ、遠回りが過ぎるわ。最初っから青天の霹靂って言えよ」
「そう? なんかたまにはこういう比喩的なのもいい塩梅なんじゃない?」
「よくねぇよ。塩が強すぎてむせるわ」
「そいつは悪かったな。食塩水でも頼むかい?」
「塩分過多。ナメクジじゃなくても遠慮するわよ。あと、そんなメニューねぇだろ、実験室かよ」
「まあまあ、そんなことよりアタシのアイデアを聞いてくれや」
「えー。どうせ、体育座りで寝ると金持ちになる夢が見れるとかだろ」
「ちげぇよ! ていうか、それホントなのか?」
「嘘に決まってんだろ」
「ふざけんなよ。いいこと聞いたと思ったのに」
「仮にホントでもお前、夢だからな。虚構の世界で富豪になってうれしいかよ」
「うれしいさ。夢の世界でくらいい夢見させてくれよ」
「夢、夢うるせぇやつね。その調子じゃ、一生夢から覚めることはできないわよ」
「その方が幸せかもな」
「何があった? まあ、それも気になるねけど、先に件のアイデアを聞こうかしら」
「あーそうね。うん……」
「ん? 何よ?」
「えー……そうえー……何だったかな?」
「すいませーん、こちらのお客様に霹靂ひとつ追加でー」
二人は喫茶店をあとにした。