クッキー作りすぎてさ
「渡したいものがあるので、あとで家に寄ってくれんかえ?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「いやです」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「ストレートだな。キャッチャーミットがこう、ズバーンって轟音を立てたよ」
「ああそう。近所迷惑だからボリュームは下げてね」
「何だよボリュームって、そこを調節するつまみなんざねぇたろうによ」
「ふーん。そうですか」
「そうだ。じゃなくて、なんで寄ってくれんのだ。お主は?」
「え? それはめんどくさ……ああ、この後に予定あるから」
「遅い遅い。修正が遅い、間に合ってない。本音が漏れてるから。水の110番だから」
「不思議ね。あんたを前にすると本音を隠せない。心の内をさらけ出したくてしょうがなくなるの」
「そなた露出狂であったか。やはり110番だな」
「待ちなんし。話を聞いてちょうだい」
「変態と話す口は持たんよ、アタシは」
「変態が何か言ってる」
「ひどいお言葉。アタシじゃなきゃ泣いてるぞ」
「渇いた大地に恵みの雨を」
「それで間に合えば世話ないさ。じゃなくてだな」
「だからなんで私があんたの家に寄らなきゃならないのよ」
「クッキーを作りすぎたから」
「先にそれをいいなさいな。とっとと行くわよ」
「やれやれ、現金な奴だ」
二人は喫茶店をあとにした。