海行きたくない?
「そろそろさ、海行きたくないか?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「泳げねーのによく言うぜ! ギャハハハ!」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「何キャラ? それ。めっちゃ蛮族の大将みたいな感じだけど」
「ゴホッ! ゲヘッ! ……やべ喉が」
「慣れないキャラチェンするからだ。ほら、水飲めよ」
「ギャハハハ! 俺様にしてみれば、こんな酒は水同然だぜ!」
「いや、水だからね。普通に酒じゃないから。てか、引きずるなぁその設定。合わせるの死ぬほどめんどくさいんだけど」
「じゃあやめるわ。で、何のみも蓋もないトークだっけ」
「わざわざそうやって言わんでいいだろ。海だよ、行きたくないか」
「いや、先週行ったんで」
「ニアミス! もう行っちゃったの? 一声かけてくれよ」
「まあ、食事所のバイトだけど」
「ああ、そういうこと。じゃあ、今度はプライベートで行こうぜ、アタシと」
「いや、あんたとはビジネスライクな関係だから」
「うぉい! 一番傷付くやつ! ビジネス関係ないけど!」
「傷付けば傷付くほどに、濃密な関係になっていくのよ……ウフフ」
「またキャラ変わったよ! いかにもヤバそうなやつに……いや、それは元からか」
「おい」
二人は喫茶店をあとにした。