譲れないもをさ
「お前はさ、何か譲れないものってあるか?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「え? ……あー玄関にある、高めの花瓶とか」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「あーそっち? 物体の方のやつ」
「え? 違うの?」
「いや、何て言うかこう、目には見えないスピリチュアル的な方で」
「あ? 信念とかそんな類いのやつ?」
「そうそう! それ系のやつお願いします」
「それ系は特にないですね」
「マジで? じゃあこの話は終わりだけど」
「いいんじゃない? 世界が終わるよりかは」
「くーっ! 世界と天秤にかけらちゃったら、もうお手上げだ」
「ギブアップ?」
「ギブアップ。世界は無理だわ」
「この野郎……諦めてんじゃねーぞ! お前には譲れないものはないのか!」
「この件に関しては特にはないですね」
「ああそう。まあ、私には花瓶以外にもあるけれど」
「あるのかよ。何よ?」
「……あんた」
「え? ちょ……お前」
「あんた……にあげた花瓶」
「結局、花瓶かよ!」
「そう。あれ結構、気に入ってたやつ」
「知らねぇよ。あーあの去年のクリスマスのプレゼントだろ?」
「そうそう。年越してすぐにあんたが割っちゃったやつ」
「引きずるなぁ。あれツルツルしてるから、手が滑っちゃったんだよ」
「分かったわよ。今年はザラザラしたやつ送るわよ」
「いやもう、花瓶はいらねぇよ!」
二人は喫茶店をあとにした。