森に行かないか
「一緒に、森に行こうぜ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「熊狩りに?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「そこはせめてさ、キノコ狩りだよね。アタシの手に熊は余るよ」
「まあ、せめてイノシシだよね」
「何がせめてなのか分からんな。ケモノから離れてくれ、危ないから」
「で、なぜゆえにあんたと森なんざ行かなきゃならんのよ」
「そりゃお前、森林浴だよ。最近、浴びてないだろ緑をさ」
「緑なら家に大量に観葉植物があるけど」
「ああ。確かにお前ん家、アホみたいに観葉植物置いてあるよな。あれは何の意味があるのだ?」
「なんかね、森が恋しくてね」
「ああ、お前エルフだからか」
「いや、私は狼に育てられたから」
「なにそれ? 新設定?」
「やっぱやめとこ」
「やめといたほうがいいよ、唐突な追加設定は。こっちが困惑するからさ」
「べ、別にあんたの為にやめたんじゃないからね!」
「だからやめろ! 設定を増やすでない!」
「流石にツンデレはもう古いわね。文化遺産レベルよ」
「いやいや、まだ現役ですよ。……なんの話だ、森だよ森」
「行ってもいいけど、森林浴なんて秒で飽きるわよ」
「秒はないだろ。せめて分で」
「飽きるのは認めるのね」
「ぐぅ、まあ実際飽きると思うけど」
「じゃあわざわざ行くのもあれね」
「えーやめるのか?」
「いや、ここは折衷案で」
「どこよ?」
「私ん家」
「観葉植物浴かよ」
二人は喫茶店をあとにした。