海賊ってさ
「海賊って憧れるよな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「はい、窃盗罪で逮捕です」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「ロマン! ロマンがないよ! エルフさぁん!」
「ロマンにかこつけて窃盗がまかり通ったらこの世は終わりよ」
「正論入りましたー。ホントにお前は、そういうところだぞ」
「だって実際、海賊なんて盗人集団でしょ?」
「他人から奪う奴らばかりじゃないだろ。孤島に眠る秘宝を求めて、大海を突き進む奴らだっているだろ」
「いないでしょ。ファンタジー以外じゃ」
「リアリティ重視。頼むから今日だけはファンタジーの場合ってことで話を進めさせてくれ」
「えー? まあ、いいけど」
「あざす! あとでパフェ奢るわ」
「いや、肉丼がいいです」
「図々しい! まあ、海賊の話だよ」
「で、何よ」
「荒れ狂う海を、巨大な帆船で練り歩くんだ、曲者ぞろいの仲間と力を合わせてな。ときにはぶつかり合いながらも、ひとつの目標に向かって進み続ける。悲しいこと、楽しいことも互いに分かち合って、心をひとつに壁を乗り越え……」
「ストップ。もういいわ」
「早いなぁ。まださわりだよ?」
「いや、もうお腹いっぱいです。続きはその辺の石ころにでも聞いてもらってください」
「ひどい扱いだな。まあ、共感してもらえないんじゃしょうがないか」
「うん。まだ、山賊の方が共感できる」
「……流石、肉丼希望者」
二人は喫茶店をあとにした。