昆虫をさ
「小さいころって昆虫とかよく飼ってたよな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「え? 食用?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「食わん食わん。アタシをなんだと思っているのだ」
「デビルでしょ」
「デビルをなんだと思っているのだ。虫なぞ食わんぞ」
「食わず嫌いはよくないわね」
「食えと申すのか?」
「あなたが望むなら」
「望むわけないだろう。もうちょっとアタシの気持ちになってみろ」
「あー肩凝りがひどいわー、的な」
「いや、確かに肩凝りはひどいけど、それは今関係ないだろ。じゃなくて」
「虫を人生のパートナーにしたいと」
「なんか色々と飛躍しすぎていないか?」
「恋に遠周りなんてないわよ」
「止まれ止まれ、話を戻そうか。まず、アタシは一言も虫を飼いたいと言っとらんぞ」
「そ、そうすか」
「なんでちょっとたじろいだぁ? まあいいけど、お前は虫とか飼ったことないのか?」
「飼ったことはない。狩ったことはある」
「蛮族。一般的なエルフのイメージに支障をきたしかねない発言だな」
「冗談よ。か弱い私は虫なんて怖くて触れないわ」
「あーそうですか。まったくお前とはとことん話が合わんな。とりあえずなんか食うか?」
「じゃあ昆虫ゼリーで」
「引きずるな! つか、ねぇよそんなもん!」
二人は食後、喫茶店をあとにした