この本さ
「めっちゃ面白かったわ、この本」
角のとがったデビルの少女が言った。
「マジ? じゃあ、貸して」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「待て待て! 早いわ! それ一番最後に言う奴だよ。まずは、アタシにプレゼンをさせてくれ」
「百聞は一見にしかず。プレゼンを長時間聞いたところで、私がその本の真価を理解するのには至らないわ」
「この正論お化けが! いいからアタシのプレゼンを聞いてくれよ。この溢れる気持ちをぶつけたくてしょうがないんだ」
「傲慢」
「二文字! 二文字ではね除けるでないわ! 人でなしか、貴様は!」
「ええ。わたくし、エルフですから」
「くーっ、こういう時だけ人外なのを前に出してくるな! いいからアタシに話をさせてくれ、後生だからさ」
「分かったわよ。聞いてあげるわ、あんたの超おもしろキレキレな魅惑のセールストークをね」
「ハードル! ホントにここぞとばかりにあげるなぁ。あと、決してアタシは出版社の回し者ではない」
「知ってるわよ。そら、早く話を始めなさいな。はい、スタート」
「えっ、いきなりそんな……えーそうだな、うーん……まあ、主人公の姉が実は全ての黒幕だったところとかかなー……あっ」
「……」
「……」
「……聞かなかったことにするわね」
「お願いします……」
二人は喫茶店をあとにした。