食欲ないな
「なんか食欲ないな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「私はある。フフンっ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「出た、今日のマウントエルフ」
「一日一マウントを心がけているわ」
「毎日、敵が増えるな。そろそろ包囲網が築かれることだろう」
「お前は完全に包囲されいるってやつね」
「そうそう。無駄な抵抗はやめろってやつ」
「田舎のおふくろさんが泣いてるってやつね」
「いやもういいだろ。マウントとるなっつてんだ。敵を増やすと、それこそおふくろ悲しむだろ」
「私のマザーの趣味ヤバイわよ」
「知らねぇよ。なんの趣味なんだよ」
「人間観察」
「それはヤバイわ。プロフィールに描いたらイタい趣味ナンバーワンだろ」
「ほんとよ。観察していいのは観察される覚悟のある奴だけよ」
「どういうこと? 人間観察のハードル高過ぎだろ」
「ハードルといえばね」
「出た、すぐ話題変えるやつ。アタシの話題で会話させろ」
「敵のテリトリーでは戦わない主義なのよね」
「誰が敵じゃ。戦闘じゃなくて会話をさせろ」
「分かったわよ。私のマザーの話だっけ?」
「違うわ。アタシの食欲がないって話だ」
「しっかりしなさい。腹が減ってはアレっていうじゃない」
「え? 戦はできぬだっけ?」
「木から落ちる」
「いやそれ猿」
二人は喫茶店をあとにした。