一曲歌っていいか?
「突然だが、一曲歌っていいか?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「店内で歌うなよ! あきらか迷惑だろ!」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「……なんかすげー久しぶりだわ。お前のやたら圧の強い突っ込み」
「久方ぶりじゃのう。デビの字」
「何キャラ? そういうの突然やるのやめや、びっくりするから」
「こんなことでびっくりしてたら、社会でやってけないわよ?」
「知るかよ! いーねよそんないきなり老人キャラになる奴!」
「ここにいるだろ!」
「だから圧が強いんだって。もっとマイルドにできないか?」
「いや、できない」
「諦めるの早いな。お前の方だ、社会でやってけないのは」
「マジか? じゃあ裏社会でやっていくわ」
「すごい発想の転換! いや、悪いことは言わないからやめておけ」
「そうね。裏社会程度じゃアタシを活かせないからね」
「なんだその一周回ってアホみたいな自信は? 自意識過剰にも程があるぞ」
「自信と過信は紙一重という言葉があってね」
「ねーよ! ニューセンテンスだよ! 勝手なこと言いすぎだろ」
「失礼、流石に度が過ぎたわ。謝罪しマスカット」
「最後! 最後で台無しだ! なんでマスカット?」
「あら? マスタードの方がよかったかしら?」
「どっちも却下だよ。いいから一曲歌わせてくれ」
「しょうがないわね。どうぞ」
「ありがとう。では……」
「ありふれた〜♪」
「お前が歌うのかよ! なんでやねん!」
二人は喫茶店をあとにした。