催眠術をさ
「さ、目をつぶって心を落ち着けてください」
角のとがったデビルの少女が言った。
「隙あり! 目潰し!」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「デンジャラスだ。身内の治安が悪すぎて夜もおちおち眠れやしない」
「いや、なんであんたが目つぶるのよ。催眠術かけられるの私でしょ」
「ホントだよ。逆になんでお前は指示通り目つぶねぇんだよ」
「ホントだよ。逆になんで目つぶる必要あるのよ」
「逆逆うるせぇ。引っくり返しすぎて目回るだろ」
「まいいから、今回あんたが考案した催眠術をかけるくだりやりましょう」
「くだり言うな。というかお前が指示に従ってくれ」
「わかったわよ。というと私はまぶたを閉じた」
「急に地の文でできたよ。まあいいや、そしたら次に両手を忍者のポーズにしてくれ」
「はい」
「いやツッコめよ。忍者のとこツッコんでこいよ」
「いや、滑らしとこうと思って」
「最低だな。忍者に暗殺されてしまえ」
「あんたに忍者を雇う金銭的な余裕ないでしょ」
「クソが。足元見やがって」
「足元といえば、忍者って水の上あるけるんだっけ?」
「だっけ? ……と言われてもな。まあ、なんかそういうのあった気がする」
「へぇーすご」
「……」
「……」
「……おい、催眠術は?」
「あ、ホントだ。催眠"術"の話がいつまにか忍"術"の話になったわね」
「これぞ変化の術! ……やかましいわ」
二人は喫茶店をあとにした。