合言葉をさ
「いざというときのために、合言葉を決めないか」
角のとがったデビルの少女が言った。
「ノーペイン・ノーゲイン……とか?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「ええ……なんか業が深くないか?」
「痛みなくして得るものなし。至言ね」
「そうだけどさ。もうちょっとカジュアルにできないかい?」
「いざというときはきっとシリアスな場面よ。腑抜けたワードはナンセンスだわ」
「そんな状況だからこそ、フランクに振る舞おうぜ」
「じゃあ、あんたの案を聞こうかしら」
「ノーデビル・ノーライフ」
「……寄せてきた。普通に寄せてきたわね」
「いや引きずられたわ。なんだよデビルがなきゃ人生じゃないって」
「じゃぁ、ここは折衷案で」
「折衷案?」
「ノーペイン・ノーライフ」
「いやだから重いんだよ。その形式を一旦忘れろよ」
「いやここまで来たらこの型で行くわよ」
「マジかよ。そろそろ引き出しの中身尽きてきたけど」
「そう? 適当に横文字くっつければいいだけでしょ」
「雑ぅ! ……じゃあ、こんなのはどうだ?」
「なにかね?」
「ノーエルフ・ノーデビル」
「……」
「お前がいなきゃアタシじゃない……ってね」
「……へぇ、いいんじゃないの? さっそく試してみましょう」
「おう! ……ノーエルフ?」
「ノーライフ」
「違うだろ」
二人は喫茶店をあとにした。