こたつから出られなくてさ
「最近、こたつから出られないんだよね」
角のとがったデビルの少女が言った。
「クソが。こたつよこせよ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「治安悪いね。どうしたよ?」
「私んちにはないんだよ。こたつ」
「は? 嘘だ、前にお前んち行った時にあったけど?」
「昨日、壊した」
「そりゃ知らないわけだ。お前んちの環境情報のアップデートが足らんかったわ」
「アップデートは大事でしょ。常に情報は最新に保つべきよ」
「お前んちのことなんざ至極どうでもいいわ」
「デリカシーないやつね。あんたのさりげないこたつ自慢がどれほど私の心を痛め付けたか想像してごらんなさいな」
「すまん。想像力の無駄遣いだ、ナイーブ野郎が」
「無駄遣いはダメね。地獄の沙汰もカネ次第よ」
「地獄に落ちる前に新しいこたつを買ってはいかがかね?」
「生憎、財布にも寒波がね」
「もうこの世が地獄みたいなもんだな。大丈夫か?」
「大丈夫よ。明日の晩に食べるカニ代はあるわ」
「カニぃ!? そのカネをこたつ代に回せや」
「いや、カニ食いたいし」
「アホか。明日の晩飯までに凍え死んじまうぞ」
「そこはね、まあ、あんたん家に身を寄せて」
「暖気泥棒が……カニ、分けろよ」
「ええ。まさしく地獄の沙汰もカニ次第ってやつね」
「うるせぇ」
二人は喫茶店をあとにした。