溺れ欠けてさ
「この前、ヤバかったわ。溺れ欠けてさ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「金に? 富豪アピールしてんじゃねぇぞ」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「それはそれでヤバいな。確かに大変だ」
「そうよ。あんな金属の中に埋もれたら、生きていられないわよ」
「いやなんで物理的な溺れ方をしてるのだ。意味が違うだろ」
「違いの分かるエルフ、ドヤッ!」
「ドヤるな。ていか金に溺れてないし」
「じゃあ何に溺れたのよ? 川?」
「ほーらすぐ当てる。絶対分かってて言ってるだろ」
「正解か、ドヤッ」
「もういいから、口角を上げるな。ムカつきすぎてひっぱたきたくなる」
「暴力変態。で、どういう経緯で溺れたの?」
「反対な。あれはそう三日前……」
「ホワンホワンホワン」
「いやいらないから、その回想入るときありがちな効果音」
「いいからどうぞ」
「まったく。川の近くを散歩してたら、猫が川で溺れかけてたんだよ」
「助けろよ! 人でなしが!」
「こわいこわい。いや、それで助けにいって、猫を助けたあとにアタシが溺れてしまったって話だよ」
「めでたしめでたし」
「いやいや、アタシが溺れたまま終わらせるなよ」
「だって今、生きてんじゃん」
「なんで生きてんか気にならんのか?」
「近隣の住民のひとたちが助けてくれたから」
「ほらまたすぐ当てるー」
「またまた正解! ドヤッ!」
「よしひっぱたたこう」
二人は喫茶店をあとにした。