耳当てをさ
「うー、最近は冷えるなぁ。耳当てでも買うかぁ」
角のとがったデビルの少女が言った。
「ついでに目当てと口当ても買ってください」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「当てすぎだろ。アタシをこの世界から隔絶するんじゃないよ」
「いや、もともと隔絶されてるだろ」
「マジかよ。アタシの存在定義どうなってんだ」
「宇宙」
「でけぇ。自分のスケールでかすぎるだろ」
「流石に宇宙用の耳当てはないわね。ハハッ!」
「……いや、ぜんぜん面白くねぇけど。何イカしたジョーク言った感だしてんだよ」
「分かったわよ。で、鼻あてがなんだって?」
「五感。もう少しで五感失うところなんだけど」
「第六感でなんとかするしかないわね」
「触覚の剥奪も確定なのか……なんで寒いだけでそんな宿命を背負わせられにゃあかんのだ」
「その二本の角で乗りきってください」
「触覚ならぬ触角ってか? ぶっとばすぞ」
「そりゃ大変。角当ても必要ね」
「もう当てはいいよ。供給過多、お腹いっぱいだ」
「それはなにより。腹が膨れりゃ、寒さなんてなんのそのでしょ」
「なるほどな。これで耳当てを買う手間が省けたってわけか」
「そういうこと。浮いたお金で遊びましょう」
「何をするのだ?」
「的当て」
「……だからもう当てはいいって」
二人は喫茶店をあとにした。