苦いものさ
「苦いもの好きかい?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「んもうゾクゾクしちゃう」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「……」
「……おい、苦い表情するな」
「お後がよろしく……ない! どういう返しだよ、今のは」
「だからゾクゾクするって」
「……ゾクゾクするほど好きってこと?」
「いや、ゾクゾクするほど嫌いってこと」
「ずりーよ、勝ち確じゃん。あたしが選ばない方を正解にするやつじゃん」
「後出しじゃんけんだな」
「たち悪いな。ホントはどうなのよ?」
「ッすー……ケースバイケース」
「いやはっきりしろよ。話が進まねぇよ」
「これぞ苦渋の選択ね」
「いや、いいよ"苦"にかけなくて。好きか嫌いか言えよ」
「ぶっちゃけものによる。一口に苦味と言ってもね」
「急に正論だな……まあ、一理あるが」
「例えばあれよ……えーなんだろ?」
「あ? 何だいさ」
「えー苦いやつといえば……靴の裏?」
「どういう連想!? なんで苦いで出てくるのがそれだよ? 連想ゲームなら一発退場だぞ」
「いやごめん。完全に偏見だわ、靴の裏なめたことないのに。イメージで言っちゃった」
「いや、そこは別にいいよ。実際苦いだろうし……じゃなくて、あるだろほら目の前にさ」
「目の前? ……ハッ!」
「そう、つい何杯もおかわりしちゃう」
「この……コーヒーが、ねっ」
「……」
「……」
「……何の宣伝?」
「知らんわ」
二人は喫茶店をあとにした。