髪切った?
「おい、お前。髪切ったか?」
角のとがったデビルの少女が言った。
「いや、切ってないけど」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「あっそう。見間違いか」
「何をどう見間違いたのか意味が分からないのだけど」
「なんにでも意味を求めるな。無意味なことが意味を持つこともある」
「ええそうね。少なくともこの会話は無意味極まりないわね」
「相も変わらず、手厳しい奴だ。そんなんだから、アタシぐらいしか友人がいないのだ」
「いや普通にいるんだけど。というかむしろあんたが友人なのかどうかが不明瞭よ」
「え?」
「気づいてなかったの?」
「意外な真実。知らなかった方が幸せだったな」
「御愁傷様」
「冷たいなぁ。まるで外に降り積もる雪のようだ」
「いや、雪降ってないわよ。幻覚でも見てるの?」
「お前の言うとおりだな。どうせ浮き世は幻さ」
「勝手に世界を無に帰さないでいただける。大魔王さん」
「大魔王とは恐れ多い。せいぜい、中魔王だろ」
「何よ中魔王って。謙遜しているのかどうなのか微妙なラインなんだけど」
「まったくだな。なんだ中魔王とは」
「あんたが言い出したんでしょうが」
「そうだっけ?」
「数秒前の記憶もないとは。流石は魔族」
「よせやい」
「いや、誉めてないわよ」
「そうなのか?」
「そうよ。記憶喪失さん」
「失われた記憶を求め、世界を飛び回るか……それもまた一興だな」
「いってらっしゃい」
「冷たいな。一緒に行かないか?」
「……機会があったら、ね」
二人は喫茶店をあとにした。