徐々に
真田幸隆「『新しい鉱脈を見つけた。』みたいな顔をされていますけれども……。一言申し上げさせていただいても宜しいでしょうか。」
私(村上義清)「……わかっているよ。民からカネを巻き上げているだけで、領内の富を増やすことが出来ているわけでは無いことぐらい……。」
真田幸隆「しかしまぁ殿の方式でありましたら彼の能力を別のものに使ったほうが良いのかもしれませんね……。ただ……採算は合わないと思いますよ。」
私(村上義清)「志賀のものが行う仕事にしては不自然にしか映らないか……。」
真田幸隆「御意。志賀のものは現在、村上と井上との境に展開しています。今は我が領内での活動……稲を植えても宜しいでしょうか。」
私(村上義清)「もしもに備えて自然堤防の上に桑も植えよう。」
真田幸隆「あそこ(千曲川)に『もしも』はありませぬ。洪水は『必然』かと思われますが。」
私(村上義清)「でも治水にも取り組んでいるように見せないと……。」
真田幸隆「比較的に洪水に強い桑を育てたところで絹の技術を持ってはおりませぬが。」
私(村上義清)「目的は違えど折角開墾にお金を使うのであれば、成果の可能性があるものをやったほうが……。」
真田幸隆「確かに。徐々に範囲を広げ、井上領内に足を踏み入れます。」
私(村上義清)「領地を侵犯するのだから当然井上は抗議して来ることになる。」
真田幸隆「こちらは『申し訳ない。』と言って引き下がります。これを幾度となく繰り返していき、抗議を無視するようにします。そうなりますと井上側も武力で以て排除に乗り出すことになります。ここで……。」
少し時間を戻して。
私(村上義清)「山内上杉の使者から奇妙な話を聞いたのだが。」
春日虎綱「どのような話でありましょうか。」
私(村上義清)「『戦おうとしたら居なくなり、居なくなったと思ったら背後に回られ。気付いたらお互い無傷で城への撤収を終えていた。』と……。これはいったいどのようなことをしておったのだ。」
春日虎綱「うち(武田)の連中は負けると言うことを全く想定しておりませぬ。だからあのようなふざけた水攻めに引っ掛かってしまったのであります。」
真田幸隆「あのようなふざけたとは。」
春日虎綱「あっ。口が過ぎました。申し訳ございませぬ。」
私(村上義清)「(幸隆の悪口を言われているのだから)まぁよい。続けよ。」
春日虎綱「引っ掛かっても突っ込めば勝てると思っていた板垣も板垣でありましたが。隊形を作れば敵の攻めを切ることが出来ると思っていた勘助も勘助であります。それ以上の相手だった場合どうするのかを考えてはおりませぬ。」
私(村上義清)「(悪い気はしていない。)もしそなたがあの場所に居たら……。」
春日虎綱「まず殿の退却路の確保を前提とした進軍を行います。今回でありましたら全ての部隊を川の向こうに渡らせるなどと言うことは絶対に致しませぬ。勿論殿(武田晴信)を渡らせるなど愚の骨頂。そのようなことをせずとも村上を破るだけの力が武田にはありました。」
私(村上義清)「(……確かに。)そなたもそう思っておったか……。もし晴信が渡ると言った場合は止めることは出来ないよな。」
春日虎綱「はい。仮に晴信が渡河し、計略に嵌ってしまった時のために準備していたものがあります。」
私(村上義清)「それが志賀城で見せたそなたの用兵であった。と言う事か……。」
春日虎綱「はい。急いで逃げ出そうとすれば敵を勢いづかせることになります。かと言いまして踏み留まり過ぎてしまうのも討ち死にの危険が増すばかりであります。如何に相手をかわしながら、被害を少なく安全な場所へ退却するかを常に想定しておりました。……がそれも無駄に終わってしまいました……。殿がこちら(志賀城)に寄ってから向かわれていましたら今頃は……。」
私(村上義清)「俺の首が晒されることになっていた。」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「(『はい。』って……。)」
戻って。
真田幸隆「虎綱の指揮のもと。双方とも人的被害を出さず。のらりくらりと井上領を出入りさせましょう。」
私(村上義清)「しかし侵入するのは井上が既に耕作している場所ではないだろう。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「しかもうちが攻撃を加えるわけでは無く逃げ回るばかり。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「いづれ『また来たか。』『どうせいつもことだろ。』となってしまわないか。」
真田幸隆「はい。」
私(村上義清)「それでよいのか。」
真田幸隆「それでも構いませぬし、井上が本気になって虎綱を潰しに掛かっても問題はありませぬ。」
私(村上義清)「どう言う事だ。」




