方向転換
天竜川東岸の要衝二俣城に移動した武田義信は天竜川を渡り、浜松城目掛け南下を開始。それに対し徳川家康は……。
私（村上義清）「情報は入っているか？」
春日虎綱「徳川家康は織田信長より『籠城し時間を稼ぐ』よう指示が出ている模様であります。」
私（村上義清）「後詰めを用意する。と言う事か？」
春日虎綱「はい。」
私（村上義清）「どれ位の規模が予想される？」
春日虎綱「美濃には現在、主立った将が集まっています。」
私（村上義清）「比叡山の時と比べてどうだ？」
春日虎綱「そこまでの規模ではありません。北条水軍により伊勢と尾張が牽制されている事。畿内がほぼ反信長となっている事。そして浅井を封鎖している事。これらの要因に対処しなければなりませんので。」
私（村上義清）「実際浜松城が囲まれた場合、本当に信長は兵を動かすと思うか？」
春日虎綱「動くとは思います。思いますが、信長には信長の優先順位があります。今は家康救援が第１位であります。ありますが、もし朝倉が近江に入った場合。北条の水軍が熱田津島の港を襲った場合。畿内の反信長勢力が将軍様を担ぎ出した場合。今の順位が維持されるかは不透明であります。」
私（村上義清）「場合によっては見捨てられる可能性もある？」
春日虎綱「はい。しかし浜松は堅固な城であります。そうそう落ちるものではありません。」
私（村上義清）「うちに救援要請が来た場合はどうする？」
春日虎綱「同盟関係である以上、兵を動かします。ただし向かうのは浜松城ではありません。そこには武田の主力がひしめいています。そこへの突撃は無謀以外の何者でもありません。動かすのは別の場所であります。」
私（村上義清）「それは何処である？」
地図を指し示す春日虎綱。
私（村上義清）「なるほど。確かに義信に与える衝撃は大きいな……。しかしここも危険である事に変わりは無いぞ。」
春日虎綱「はい。しかし家康を助けるためにはここに兵を出すしかありません。」
二俣城から浜松城へ向かっていた武田義信でありましたが、城の手前で方向転換。兵を西へと進めるのでありました。
春日虎綱「『家康が城から出て来る気配が無い。籠城を決意している。』
事を悟った義信は、
『戦う気が無いのであれば無理にいくさをする必要は無い。織田信長を前にして兵を損耗させる必要も無い。』
と城攻めを避け、兵を西に進める事を優先した模様であります。」
私（村上義清）「となると武田の勢力衰える事無く、こちらへ向かって来る？」
春日虎綱「いえ。そうはなりません。義信が城攻めを避ける事情があるように家康にも……。」
