軌道修正
私（村上義清）「織田はどうしている？」
春日虎綱「はい。信長の嫡男信忠が北近江で初陣を飾りました。当初の目的は浅井領内で活動する一向一揆を破るためでありました。しかし殊の外成果を挙げた事もありまして目標を変更。浅井長政の本拠小谷城攻略に転じました。これに対し、長政は越前の朝倉義景に救援を要請しました。」
私（村上義清）「これに対し義景は？」
春日虎綱「浅井長政からの要請を受諾。自ら兵を率い近江に入りました。」
私（村上義清）「一戦交えたと言う情報は入っていないと思うが……。」
春日虎綱「はい。朝倉義景は小谷城北西に位置する大獄山に上り、そこに本陣を張りました。それから２ヶ月の間、一切動く事はありませんでした。」
私（村上義清）「その間信長は？」
春日虎綱「小谷城攻略のため虎御前山に砦を構築しました。」
私（村上義清）「その動きを見ても義景は……。」
春日虎綱「一切動く事はありませんでした。この義景の体たらくを見た朝倉の家臣の一部が織田信長に投降してしまいました。」
私（村上義清）「今はどうなっている？」
春日虎綱「信長は武田の情勢が気になった事もあり、美濃に戻っています。」
私（村上義清）「この動きに対しても？」
春日虎綱「義景は追撃を加えること無く、兵を越前に戻しています。」
私（村上義清）「人質交換でもしたのか？」
春日虎綱「いえ。」
私（村上義清）「信長が帰った事に気付かなかった？」
春日虎綱「いえ。（朝倉義景が陣を構えた）大獄山は小谷城を始め、信長が砦を構築した虎御前山も見下ろす事の出来る場所にあります。」
私（村上義清）「では信長が陣を引き払うのも？」
春日虎綱「一望のもとでありました。」
私（村上義清）「それを見ても動かず、自らも兵を越前に……。」
春日虎綱「比叡山の時同様『当面の危機が去った。これから越前は雪で閉ざされる。そうなると物資の輸送が滞る事になる。』との判断であったかと。」
私（村上義清）「義信にも当然この事は……。」
春日虎綱「私が知っているぐらいでありますから。ただ信長の兵全てが近江を離れたわけではありません。小谷城への封鎖は継続している模様であります。つまり多くの兵はまだ北近江に留まっています。しかし時間はありません。雪が融ける前に小谷城が陥落してしまう恐れがあります。」
私（村上義清）「それで東海道沿いでは無く、今は手薄な美濃を狙うべくうちの領内を通りたいと言って来たのか……。」
春日虎綱「そう見て間違いありません。」
