運輸
春日虎綱「比叡山と信長がぶつかる理由でありますか……。信長の本拠地美濃から京へ向かう際、比叡山の麓を通らなければならない事。朝倉浅井と結んだ和議の内容にある
『近江の３分の２は織田領』
となる場所と比叡山の権益が重なる事から見ますと、係争事に発展しない方が不思議ではあります。ただだからと言いまして、天皇様の仲介案を天皇様の身内である座主が拒絶する。それも
『味方とならないまでも。中立を維持してくれれば、全ての寺領を比叡山に返す。』
と言う信長が敗北を認める妥協案を提示してもこれを固辞する所までこじれる要因とまではならないと思いますし、信長も信長で今後の畿内運営に必要な人物の子弟が多数入っている比叡山を根絶させるまでにはならなかったと思います。そこまでしても手に入れたいものが信長にはある。と……。」
私（村上義清）「行き来していて感じるものはあるか？」
春日虎綱「そうですね……。信長が比叡山から根こそぎ奪おうとしたものでありますか……。１つは琵琶湖を含む近江の物流になりますでしょうか。元々は比叡山の権益であります越前に加賀。そして若狭と言った辺りから収穫される作物。主に稲を比叡山。更には換金先となる京へ運ぶために発展した陸運に水運。我々の麻織物も彼らが持つ近江の物流網を経由して京に運ばれています。そこを通る時には料金が発生しています。そこで支払ったお金は全て比叡山の収入となっています。
近江で運輸事業を営んでいない我らからしますと、責任を持って京へ運んでいただける彼らの存在は有難い限りであります。ありますが一方、近江に進出している。それも交通の拠点となる草津と大津に直轄地を設定している織田家から見た場合はどうでしょう？しかもその相手が今信長と対立関係にある朝倉浅井と手を結び、本拠地を基地として提供した比叡山。そんな比叡山の持つ運輸通信網は信長にとって厄介この上無かったかと……。
実際、この半年前。信長は横山城に入れている木下秀吉に対し、越前から畿内へと通じる陸路水路の遮断を命じています。その内容も
『不審な者は斬って捨てよ。』
と言った厳しいものでありました。」
私（村上義清）「もし対立関係で無かったら？」
春日虎綱「比叡山が織田家の従業員としての立場を受け入れる事が出来れば生き残れるとは思います。ただ比叡山が信長の軍門に降る事はあり得ませんし、運輸事業者も比叡山のお墨付きがあって成立している事を考えますと……。」
私（村上義清）「比叡山そのものをあそこまでしないと手に入れる事は出来ない？」
春日虎綱「ただそれだけで焼討まではいかないでしょう。そうなりますと他の収入源……。」
