出処
春日虎綱「私は殿の部下であり上司ではありませんので、殿が何をしていただいても構いません。戦略上必要であった事も承知していますし、やり口を見れば、真田様の差配である事もわかります。」
私(村上義清)「(安堵のため息)」
春日虎綱「ただこのお方様はどう思われるでしょうか?」
私(村上義清)「誰である?」
春日虎綱「殿。」
私(村上義清)「どうした?」
春日虎綱「滝山で使った玉薬は当然、殿の自腹で購入した物ですよね?」
私(村上義清)「俺のいくさは自前である。」
春日虎綱「『俺のいくさ』とは何処までの事を指しますか?鉢形から滝山の攻略。滝山の防衛に拝島でのいくさ。そして秩父掌握の全てでありますか?それでしたら問題ありませんが。」
私(村上義清)「……。」
春日虎綱「殿が独力で兵を動かしたものだけでありますね?」
私(村上義清)「……はい。」
春日虎綱「そのほかの玉薬の供給先は何処になりますか?越後からですよね?関東管領の役目として提供されたもの。借りものでありますよね?輝虎の性格上、何か見返りを求められる事は無いと思われます。
ただそれには条件があります。それは越後が安泰である事。輝虎が越後で君臨し続ける事であります。これが破綻を来した時、今の用兵は出来なくなります。輝虎にも寿命があります。彼には後継者となり得る人物がいません。彼の命が尽きると同時に越後は間違いなく乱れます。その時、信濃への物流は途絶える事になります。現金収入獲得に欠かす事が出来ない麻織物の輸送に、麻織物の原料となる青苧の購入。食糧に塩。そして玉薬であります。
これらが無ければ、我らの考えに賛同する人物を後押しする事も、場合によっては自らが越後の権益を獲得する事も出来なくなってしまいます。尾張や三河から供給を受ける選択肢もありますが、信長や家康は輝虎より現実を見据えています。供給を受けた以上、見返り。義務が求められる事になります。加えて彼らの本拠地である美濃と三河に我らは食い込んでいます。いつ衝突する事になってもおかしくない地理条件が整っています。そんな相手に手の内を見せるわけにはいきません。ですので、
『言えばすぐ手に入れる事が出来る。』
『翌年度の予算がつかないから年度内に使い切らなければならない。』
と言った考えは捨てて下さい。
今後も関東管領の役目として玉薬の供給受ける事に問題ありません。ただその全てを真田様に任せてはいけません。深志と葛尾で管理します。」




