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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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前例

真田幸隆「お互いやってみなければわからないもの同士であるからこそ、殿が用意した『これ』が活きて来るのであります。」


「放て!!」

迎撃態勢に入った武田晴信の部隊目掛け、一斉に矢を打ち込む村上義清。


「怯むな!敵は小勢なり!!」

檄を飛ばす武田晴信。そこへ……。


「放て!!!」

再びの号令と同時に、今まで聞いたことの無い轟音が鳴り響いたかと思った瞬間。血しぶきを上げ。その場に崩れ落ちる武田勢。


「いったい何が起こったのだ!!!」

狼狽する武田勢。村上義清が武田晴信対策として用意したもの。それは……。


真田幸隆「よくこれだけの数を調達することが出来ましたね。」


 5年前に日本に伝来した種子島(鉄砲)。これまでは権力者の間の贈り物と言う扱いに留まっていたこの種子島を村上義清は50も用意。


私(村上義清)「(……先代の義清が城に残していたものだけれども……。銃自体も貴重なものではあるが、それ以上に助かったのが……。)」


 銃を活用するのに必要不可欠な玉薬。


私(村上義清)「炭と硫黄はあるのだが、もう1つの原料はどうしても……。」


 玉薬を作るのに必要なもう1つの原料の名は『硝石』。この硝石は大陸からの輸入に頼るしかなかった当時。そんな貴重な玉薬を。


真田幸隆「各3発もあるとは……。」


 村上義清は、武田晴信とのいくさに備え弓兵150に鉄砲兵50を組織。弓には矢を10本。鉄砲には3発の玉薬を支給。これを5名1隊に編成し指揮官を配置。その指揮官の号令のもと、一斉射撃を敢行したのでありました。これはこれまでの日本には無かった戦い方。思わぬ敵襲に動揺する武田勢。その中でとりわけ効果を発揮したのが種子島。一騎打ちでも無ければ、名手が放った矢でもない。一介の足軽が放った一撃により、名のある武将を崩れ落とすことの出来る種子島。


私(村上義清)「(……あれだけの数をよくぞ用意していたものである。ただ……。)」


 その大多数は、真田による板垣甘利対策の仕込みとして使用済み。燃え盛る尼ヶ淵を眺めながら。


私(村上義清)「あれ……爆発だよな……。しかもあいつ(幸隆)……。尼ヶ淵が占拠される最悪の事態も想定して、……尼ヶ淵の軟弱地盤にも玉薬を仕掛けていたよな……。あれがあればもう少し弾の数を増やすことが出来たのだが……。ただ今の武田の様子を見ていると。『一発放ち。あとは構えるだけでも充分効果があります。』の幸隆の言葉が良くわかる。」


 村上義清の足軽が銃口を向けるだけで、今にも陣形を乱しかねない様子の武田晴信の旗本衆。


真田幸隆「武田晴信にとっての真の弱点はここにあります。」

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