義信の誤算
武田義信が駿府を落としてから１週間。
真田幸隆「北条氏康が兵を動かしました。」
私（村上義清）「どこへだ？」
真田幸隆「駿河です。」
私（村上義清）「目的は？」
真田幸隆「今川氏真救援であります。」
春日虎綱「氏康は此度の動きを黙認したハズでは？」
真田幸隆「確かに氏康は義信の駿府侵攻を認めた。実際に駿府を占拠した後も動く事は無かった。」
私（村上義清）「武田と今川が相争った後を狙っていた？」
真田幸隆「いえ。それはありません。駿河の情勢。今川の家臣の心が氏真から離れていた事。氏真自身の動き。輝虎と通信した事。武田北条の了承無しに家康と単独で講和を結んだ事。そして三河及び西遠江の体たらく。これらを鑑みて氏康は、このまま東海道筋を氏真に託す事は出来ないと判断していました。かと言って誼を通じている手前。自らが管理するわけには行きませんし、氏康はあくまで関東を重視しています。直接織田徳川と境を為すのは得策では無いと判断しています。」
私（村上義清）「それでも兵を出した理由は？」
真田幸隆「氏康は義信に条件を１つ出して居ました。それは氏真に嫁がせた娘の安全であります。氏康の娘は今、氏真と共に掛川に居ます。」
私（村上義清）「駿府を離れなければならなくなった事がいけなかった？」
真田幸隆「まぁそれにつきましては、氏真にも責任があります。義信が入ってから抵抗らしい抵抗を見せる事も出来ず逃げ出さなければならなくなったのでありますから。ただそうなったとは言え、その原因を作ったのは義信であります。氏康の娘は、駿府から掛川まで徒歩での移動を余儀なくされました。これが氏康の逆鱗に触れまして……。」
私（村上義清）「今回の出兵に繋がった？」
真田幸隆「はい。」
私（村上義清）「そうなると氏康の目的は娘の奪還？」
真田幸隆「そうなります。」
私（村上義清）「駿遠については？」
真田幸隆「氏真に任せる事は出来ませんし、義信と対立する以上。」
私（村上義清）「氏康自らが行う事を目指している？」
真田幸隆「そう見て間違いありません。」
私（村上義清）「しかし今、駿河は武田方一色に染まっておるが？」
真田幸隆「陸上はそうかもしれません。しれませんが、長年。武田北条双方共行き来のあった者共が居る地域であります。情勢次第で如何様にも変わると思います。加えて義信にはまだ水軍がありません。それに対し北条は伊豆相模に大規模な水軍が組織されていますし、駿河東遠江の制海権は未だ氏真にあります。そして義信が駿府に居るとなりますと氏康は当然……。」
