脱出した者は……
私（村上義清）「……となると城を攻め込まれる前に逃げ出した者が得をした？」
春日虎綱「それについてなのでありますが……。」
私（村上義清）「何かあったのか？」
春日虎綱「はい。今、家康は堀川城から逃げ出した者を探しています。」
私（村上義清）「井伊谷から追い出した連中の残党や寺の関係者か？」
春日虎綱「勿論それもあります。それもありますが、家康が探しているのは城に入った者。全員であります。
此度のいくさで家康は、陸地となった泥地を。敢えて急がず。着実に道を拵えながら城へと近付きました。逃げる時間は十分にありました。ただ城内には、このいくさで一矢を報いようと考えている者が要所に配置されていた事は想像に難くありません。逃げ出そうとして、簡単に脱出出来るわけではありません。にもかかわらず逃げ出す事が出来た者は、基本。動く事が出来る者。いくさをする事が出来る者であり、井伊谷から追われた者や宝渚寺の者も手を出す事が出来ない。それなりの有力者であります。
彼らをそのままにしておく事は、今後。家康が気賀を運営するにあたり、支障を来す恐れがあります。何故なら城内に残った者全てを亡き者にしたのでありますから。その中には当然、逃げ出した者の身内も居ると思われます。それが１つ。
あと考えられる要因としましては……井伊谷であります。」
私（村上義清）「今回、堀川城に籠った者を匿う事を防ぐため？」
春日虎綱「お隣さんでありますので当然身内も多い事と思われますし、平素。行き来も多い事かと思われます。加えて井伊谷で信仰されている龍潭寺は、今回家康と戦った宝渚寺と同じ。臨済宗妙心寺派に属しています。」
私（村上義清）「縁を切ったんだろ？」
春日虎綱「殿が私に仰ったでしょう。『奥山の者は親戚内で役割を分担している可能性があるから気を付けろ。』と……。龍潭寺は我が領内であります。宝渚寺は家康の領土であります。気賀も家康の領土であります。もし龍潭寺が家康の領土であった場合、たとえ井伊の本家が家康に付いたとしても……。」
私（村上義清）「龍潭寺がどう動くかは別問題？」
春日虎綱「その可能性は十分に考える事が出来ます。井伊谷から追い出した者の菩提寺が龍潭寺の者も居ますので。『たまたまうちの管轄だったから動けなかった。』とも考える事が出来ます。
故に『もし徳川に刃向かったらこうなりますよ。』と言う事を見せつける必要が家康にはあります。」
私（村上義清）「それで必要以上に、探し回っている……。」
春日虎綱「そう見て間違い無いかと。」
私（村上義清）「となると彼らに待ち受けている運命は……。」
春日虎綱「厳しいものになるかと思われます。」
