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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
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くれてやる

 少し前。


真田幸隆「残念ながら今川氏真に天竜川以西を治める力はありません。既に徳川家康の手に落ちていると言っても過言ではありません。尤も我らは徳川家康の側に立っていますので、その事が問題にはなりません。むしろ歓迎すべき事案であります。

 一方、天竜川の東側に目を移しますと、掛川城の朝比奈泰朝始め。今川方を鮮明にしている者が多数を占めています。家康と言えども簡単に攻略する事は出来ません。ただ怖い事が1つあります。それは天竜川より西の中にも徳川に与する事を善しとはしていない者が居る事であります。しかし彼ら独力では家康に対抗する事は出来ません。待っているのは悲惨な運命だけであります。彼らには氏真の援軍が頼りであります。しかし氏真は動く事は出来ません。何故なら天竜川以西の国人は、家康の到来を今か今かと待っているからであります。その様子を見た天竜川以東の国人はどのように思うでしょうか?

『心は今川から離れているわけでは無いが、生き残るためには家康に屈するより選択肢は残されていない。』

 そう思っても不思議な事ではありません。ひとりの国人が崩れれば、雪崩を打ってしまうのが世の常であります。氏真は動かなければなりません。しかし彼にその力はありません。

 先程も述べましたが、それ自体は喜ばしい出来事ではあります。ただ我らにも問題が1つあります。武田の去就であります。(武田)義信がもし、今川側についた場合。我らは武田といくさをしなければならなくなります。負けるとは思ってはおりませんが、虎綱が言ったように心情的には戦いたくはありません。私もその1人であります。かと言いまして、我らが武田とのいくさを拒否した場合、我らに待っている運命は『賊将』の汚名を着せられる同時に、信長の攻勢を受ける事になってしまいます。それも避けなければなりません。

 そこで今回、義信と話をしました。義信を通じ、氏康にも氏真にも私の案を伝えました。そして了承を得る事が出来ました。その案なのでありますが、1つは

『天竜川より西については損切りしましょう。家康にくれてやりましょう。』

 大半の国人が氏真の下を離れてしまっている以上、そこは諦めましょう。しかし家康にくれてやるのはここまでであります。

 ただ先程も述べましたように幾ら今川方が残っているとは言え、天竜川以西における氏真の体たらくに対する失望が天竜川以東に蔓延してしまう事は避けて通る事は出来ません。氏真に変わる別の人物が彼らを守らなければなりません。」

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