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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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尼ヶ淵

武田晴信「あれはいったいなんなのだ?」


 千曲川の南に達した武田晴信は対岸に見知らぬ構造物を確認。


板垣信方「海野平の時には無かったものでありますな。」

武田晴信「わかるものはおるか。」

山本勘助「御館様。あれは我らとのいくさに備え、村上めが築いたものであります。」


 村上義清。正確には真田幸隆が武田晴信とのいくさに備え築いた場所は千曲川の分流尼ヶ淵の崖上。千曲川の流れによって削られた台地の端に位置するため一見守るのに適している場所。


私(村上義清)「ただ崖の中に、火砕流由来の粉塵の層が……。」


 この層は柔らかくもろい。そのため大水のたびに侵食される弱点を抱えているのでありました。


私(村上義清)「それ以上に問題となっているのが……。」


板垣信方「あんな小城。正面から突き崩して見せましょう。」

山本勘助「いえ。ここからですと千曲川と尼ヶ淵の崖に阻まれ、たとえ我らでありましても被害は甚大なものとなってしまいます。」

甘利虎泰「勘助。いくさを前にそんな腰抜けでは困るぞ。」

武田晴信「いやいやそう言うな。勘助に何か考えがあるのであろう。申してみよ。」

山本勘助「はっ!!あの城には致命的な弱点があります。それは……。」


私(村上義清)「立地場所に問題があるんだよな……。」


 真田幸隆が築いた城の南と西は千曲川の流れが作った崖の上のため安全は確保されているのでありますがその一方。


山本勘助「城の東側は、がら空きになっております。しかもその東側において尼ヶ淵は……。」


私(村上義清)「最も低い場所にある。」


板垣信方「……と言うことは南から無理に城を攻めるのでは無く、東から回り込むように攻めたほうが良い。と……。」

甘利虎泰「しかも尼ヶ淵までの道のりが下りとなるのであれば……。」

武田晴信「より少ない被害で以て、村上を破ることが出来ると言うことか。」

山本勘助「その通りであります。」


私(村上義清)「西が崖……。どちらかと言えば、武田よりも……俺を相手にした時に造る場所だよな……。幸隆は何を企んであんな場所に城を築いたのだ……。」


山本勘助「ただ東から回り込んだとしましても障害となるものがあります。」

板垣信方「神川のことか。」

山本勘助「はい。その通りであります。もし私がいくさに備えるのでありましたら東の神川と南の千曲川に囲まれた場所に守る拠点を構えることになると思われます。」

甘利虎泰「もしそうなっているのであれば、お前の考え通りにはならぬことになるぞ。」

山本勘助「そうなのでありますが、密偵を放ち探りを入れたのでありますが……何も見当たらないとのこと。」

武田晴信「何も無いのか。」

山本勘助「はい。」

武田晴信「村上は何を考えておるのだ……。」

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