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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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武器なんか

 村上義清は御館様。皆が仕事に勤しんでいる時間にあって、唯一決まった仕事が存在しない人物。だからと言って必ずしも暇なわけではありません。特に今は迫り来る武田晴信への対処と言う難問を抱えています。勿論日常の案件の処理を疎かにすることは出来ません。加えて戦国時代の当時、伝達手段は口頭ないし直筆。携帯端末はおろか、録音機材や印刷機械も無い時代でありますので伝えたい人毎にその都度作成しなければなりません。通信手段は早馬もしくは狼煙。バックスペースキーを使い何度も書き直すことは出来ませんので一枚の書類を作成するのにも神経を使わなければいけません。右筆に頼めば済む話なのではありますが、情報漏洩を防ぐことを考えますと他人に任せることも難しく、雑多な仕事が増える毎日。

 そんな忙しい日々にありまして、政務の合間の息抜きの1つとなっているのが運動であります。村上義清になる前に居た21世紀の世の中は、新型ウイルスの影響により外出自粛が要請され、特に屋内における集団活動に対し、厳しい目が向けられていました。そんな中にありまして、唯一許されていた。いやむしろ推奨されていたものがありました。それは何かと言いますと屋外で。それも出来る限り1人での運動。歩いたり走ったり自転車に乗りましたり……。最初は嫌々始めたのでありましたが、体調が良くなるにつれ、段々と癖になり。最後はこれをやらないと気分が乗らないにまで至ったことが……転生した16世紀の今に活きております。

 ただ問題となっていることが1つありまして。それは何かと言いますと

(……私。格闘技の経験が全く無いのであります。)

加えて

(……生き物を操っての移動をしたこともありません。)

 戦国時代の武士にとって必須とも言えるこれらのことが全くわかりません。仮にわかっていたとしましても21世紀の。少なくとも日本において

(……鋭利な刃物を人に向ける必要がありませんので……。)

家臣や師範の先生から

「あれ!?なんでこいつこんなことも出来ないんだ?」

の冷たい視線を浴びながら精進の日々を過ごしているのであります。

 先日も長槍の使い方がわからず。幸隆に

「恥を忍んでお尋ねします。」

と教えを請いましたところ

真田幸隆「殿は長槍の名手だったと思われますが。」

と怪訝な顔をされ。それでも

「齢をとるとこうなるんだよ。忘れてしまうこともあるんだよ。お前も俺の歳になるとわかるから。」

と懇願したところ

真田幸隆「相手の目を狙えばいいですよ。」

との答え。

(……本当に刺さなければいけないんだ……。)

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