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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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臨時ボーナス

 当時、いくさに参加していたものの全てが専業の武士と言うわけでは必ずしもなく、仕事を求めてのものや年貢労役の軽減免除と引き換えの貧しい農家も数多く参加。当然給料は安く、いくさが終わればお役御免となる立場。そんな彼らが何故命を懸け、危険な任務に乗り込むのか?それは……。


真田幸隆「勝った暁にはご褒美が待っているからであります。」

私(村上義清)「一時金みたいなものか。」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「しかし遠征費は雇い主持ち。その段階で既に報酬は渡されているとなるとその原資は……」


 武田晴信が上野。更には諏訪へと転戦を続ける中、落城した志賀城では市場が開かれるのでありました。落城した。それも外曲輪と二の曲輪が焼き落され。本曲輪は血で染め抜かれた荒れ果てた志賀城。そんな場所で何が売買されたのか。それは……。


真田幸隆「捕虜となった城兵並びに城内で働いていた女性と子供でありました。」


 当時、捕虜は将兵に分け与えられ、これを元手に兌換することにより報酬を得ることはよくあったことでありました。ただその場合。


真田幸隆「捕虜を売る相手は基本。その捕虜の親族。」

私(村上義清)「城に常駐する。特に女性や子供となれば、それ相応の。地元の名士とも言うべき家のものが多い。金を持っている相手であるからそれなりの収入になる。」

真田幸隆「ただ志賀城においては、そうはならなかったようでありまして。」


 捕虜に対し付けられた値札はとてもではないが買い取ることが出来ない金額。


真田幸隆「結果。捕虜たちは皆、人買いに売り払われることになったのでありました。更に武田晴信は、志賀城近隣の家々を襲い略奪。」


 統治をする。と言うことを考えた場合、略奪のし過ぎは当然反発を買うことになります。そのため『略奪の禁止』を徹底させるなど歯止め策を講じることも多かったのでありましたが。


真田幸隆「武田晴信が行ったのは志賀城並びにその周囲にある富と言う富の全てを奪い尽くすものでありました。」

私(村上義清)「何故そこまで徹底したのか。」

真田幸隆「殿がこれまで佐久に対し煮え湯を飲まされてきましたように、武田も同じ目に遭って来ました。」


 佐久は長年、武田と村上の係争地。その時々の情勢に応じ、ある時は武田。ある時は村上。またある時は諏訪もしくは山内上杉へと従う相手を変えて来た佐久の国人領主たち。中央政権不在の不安定な時代。生き残るためにはそうせざるを得なかった。とは言え……。


真田幸隆「信虎追放の間隙をついてきた山内上杉とそれになびいた志賀城の笠原清繁を晴信はどうしても許すことが出来なかったのでありましょう。」

私(村上義清)「で。今領内に居るものは……。」

真田幸隆「志賀城周辺で暮らして来たかたがたでありましょう。」

私(村上義清)「地域の有力者であったものも……。」

真田幸隆「多いと思われます。」

私(村上義清)「武田はこれからどうやって志賀城を治めると言うのだ。」

真田幸隆「一族全てを一つの勢力に。とはしていないと思います。海野平における私の一族のように。多額の献金と引き換えに武田の略奪を逃れたものもいるかと思われますし、晴信とすればここを北信濃並びに上野進出の拠点に構えようとなれば……。」

私(村上義清)「それなりの直轄地が必要となる。」

真田幸隆「はい。そのためには誰のものでもない土地を必要としていたと思われます。」

私(村上義清)「それもあって……。ところでさ。」

真田幸隆「なんでしょうか。」

私(村上義清)「志賀城に対して晴信の恨みの念が強かった。と……。」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「お前と武田晴信の関係は?」

真田幸隆「喧嘩別れした当主とその部下であります。」

私(村上義清)「……そうなんだよね……。」


 平和裏にことを収めることは……無理なんだろうな……。

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