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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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流民の正体は

真田幸隆「流民の正体は志賀城の者共であります。」


 朝食を終えた私に対し幸隆はこのように述べたのでありました。

 志賀城は今の長野県佐久市中心部の東に築かれた山城。この城を含む佐久地域は長年村上と武田の抗争が続いていた地域。これに諏訪も加えた三者が連合して戦った海野平の戦いの結果。佐久郡は諏訪と武田との間で分割されたのでありましたが、直後に武田の政変が発生。武田が本貫地である甲斐国内の安定化に注力している隙を突き上野の山内上杉が乱入。諏訪と講和を結ぶのでありましたがその条件として諏訪が提示したのが。


真田幸隆「武田が持っていた佐久の権益でありました。」


 当然の如く武田晴信は激怒。諏訪との同盟関係を破棄し侵攻。領有化に成功した晴信は諏訪が有していた。並びに山内上杉に奪われた佐久における権益を奪い取るべく兵を進めるのでありました。


真田幸隆「その後、晴信は諏訪における権益を確固たるものにするべく伊那高遠での活動に重心を置くことになり、佐久は落ち着きを取り戻すことになるのでありましたが。」


 晴信は伊那高遠地域における戦いに勝利。


真田幸隆「これとほぼ時期を同じくしまして、関東における河越城の戦いに武田晴信の同盟者である北条氏康が山内上杉ら関東の連合軍に勝利を収めるのでありました。」

私(村上義清)「山内上杉の力の低下に佐久の連中は危機感を抱き。」

真田幸隆「はい。武田晴信の傘下に収まるものが続出しました。」

私(村上義清)「その中で最後まで山内上杉側に留まっていたのが。」


 志賀城の笠原清繁。上野との国境に近く、山内上杉の支援を受けやすかったことに加え清繁は山内上杉の家臣高田氏と縁戚関係にありました。


私(村上義清)「そこに武田晴信が攻め寄せて来て、今の状況を見ると晴信が勝った。」

真田幸隆「はい。その通りであります。」

私(村上義清)「しかしそれだけなら彼らが我が領内に流れ込んで来ることにはならないであろう。統治するのにあたり、欠かすことの出来ない生産者であり、かつ村のまとめ役にもなり得る彼らが居なくなるのは武田にとっても困ることになる故、土地から追い払うことなど出来ないであろう。むしろ丁重に扱うべき相手。」

真田幸隆「確かに。」

私(村上義清)「では何故彼らは夜逃げ同然の姿で我が領内に押し寄せて来たのだ。武田が我が領内を不穏なものとするべく計略を働かせたのであろうか。」

真田幸隆「いえ。そのような感じは見受けられませぬ。むしろ武田に対する憎悪の念強く。『武田とのいくさならばいつでも行きます。』と申しておりました。」

私(村上義清)「……何があったのだ……。」

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