弟は
春日虎綱「頼りにならなかった。と言うよりは長親には広忠に繋がる系譜以外の息子が居まして、その中の一人であります桜井松平家に入りました信定を溺愛していました。」
私(村上義清)「自分(松平長親)の跡を継いだのは長男(の信忠)で信定は?」
春日虎綱「三男です。その信定が広忠排斥の動きを見せます。その動きに対し長親は何の手立てを講じることもありませんでした。」
私(村上義清)「黙認した。」
春日虎綱「はい。」
私(村上義清)「似たようなことが……。」
春日虎綱「御館様(武田晴信)にもありました。」
武田や大友など当主が長男より次男以下や娘の嫁ぎ先を溺愛したことが原因で騒動に発展した家は戦国時代以外にもよくある話であります。
私(村上義清)「弟(妹)の特権と言えば特権だよな。」
春日虎綱「兄(姉)を見ていますからね。」
私(村上義清)「何をすれば父(母)が喜び、どのようなことをしたら怒られるのかを兄(姉)が見せてくれるからな……。」
春日虎綱「常に兄(姉)は前人未到の地を切り開かなければならない宿命を背負っていますので。」
私(村上義清)「そのことを父(母)がわかってあげないといけないのだけれども。」
春日虎綱「親にしましても長男(長女)を育てるのは初めてでありますので。」
私(村上義清)「お互い探り探りの中、『なんでそうなるの!?』の日々を経験したのちに生まれた次の子を迎える両親と、開拓者である兄(姉)が地ならししたあとに出て来る弟(妹)。」
春日虎綱「あとは均された路線を踏襲しさえすればよい。」
私(村上義清)「楽と言えば楽だよな。」
春日虎綱「ただ齢の差を使われますけどね。弟は……。」
私(村上義清)「お前。長男じゃなかったっけ?」
春日虎綱「姉が居ます。その姉夫婦に土地を取られたんですよ私は。」
私(村上義清)「話を戻そうか。」
春日虎綱「そうですね。信定は広忠を岡崎から追い払います。ただそこで広忠を亡き者にすることが出来ず伊勢に逃れられてしまいました。」
私(村上義清)「担ぐ神輿を残してしまった……。」
春日虎綱「はい。広忠の家臣阿部定吉が動きまして、まず三河の東条吉良に連絡を取り。そこから駿河の今川義元の支持を取り付けることに成功しました。今川の後ろ盾を得ました広忠の動きに、不利な状況に陥ったことを悟った信定は広忠への帰順を申し入れました。」
私(村上義清)「それに対し広忠は?」
春日虎綱「信定の影響力の大きさもありますし、信定を溺愛している曽祖父の長親が健在でありますので。」
私(村上義清)「許さざるを得なかった?」
春日虎綱「はい。」




