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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
越後の龍

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飛脚

 越後に戻った上杉輝虎は……。


私(村上義清)「(勝手に帰ったこと以外にも輝虎は)関白に怒っている?」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「関白に踊らされて関東に入ったことにか?」

真田幸隆「あそこまで戦線が拡大してしまったこと。古河公方と言う爆弾を抱えてしまったこと。その結果、北条と武田との抗争から抜け出すことが難しくなってしまったこと。それらすべての原因が関白様にそそのかされたから。にもかかわらず当の本人は京に帰ってしまった。確かにそうなのではありますが、関東に入ることは憲政との絡み。その事自体は輝虎の自己責任と言えば自己責任であります。」

私(村上義清)「そうだよな。」

真田幸隆「そうなのでありますが……。」

私(村上義清)「何だ?申してみよ。」

真田幸隆「輝虎のもとに送られた手紙に問題がありまして……。」

私(村上義清)「輝虎は文書に厳しいからな。」


 1570年。上杉輝虎に通信を試みた今川氏真は、幾度となく書状を出すも輝虎からの返事は無し。その理由は……。


真田幸隆「一文字でも書体や形式。官位家格に見合わない箇所があったら相手にしてくれませんからね……。」

私(村上義清)「しかし関白の方が輝虎よりも上位職だろ?」

真田幸隆「そうなのではありますが。」

私(村上義清)「書いてあった中身に問題があったのか?」

真田幸隆「関白様は輝虎との縁を切りたく無いようであります。」

私(村上義清)「勝手に抜け出しておいて?」

真田幸隆「はい。ただ輝虎はそれだけで怒ったわけではないようでありまして……。」

私(村上義清)「文書以外に問題があったのか?」

真田幸隆「はい。どうやら関白様は飛脚を使ったそうであります。」

私(村上義清)「京と越後の間には、朝倉も居れば畠山も居る。加えて加賀は将軍家の管轄外(一向宗)。そして越中は交戦中となると正式な文書を送るのは難しい状況にはある。」

真田幸隆「関白様も手紙の中で触れています。」

私(村上義清)「輝虎が引っ掛かりそうな箇所を関白も把握していた。と言う事か。」

真田幸隆「はい。少しでも早く連絡するために今回無礼を承知で飛脚を使ってしまいました。改めて正式な使者を立てます。と記されていたそうであります。」

私(村上義清)「文書に残してしまっているんだね。」

真田幸隆「そうなんですよ。『知らない。』とか周りに指摘する人が居なかったのであれば、ある意味仕方のないところではあります。」

私(村上義清)「ただ関白は幼少期から書札礼を叩きこまれて来たであろうから飛脚を使う事の意味は当然わかっている。」

真田幸隆「はい。ただ現状が現状でありますので、輝虎も『それ程までに混乱されていたのだな。』と受け止めることが出来ないこともありません。」

私(村上義清)「そのことに触れてさえいなければ……。」

真田幸隆「はい。輝虎からすれば『わかってやっているんですね。そうですか。わかりました。それでしたら……。』と言ったところでしょうか。」

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