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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
越後の龍

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今年の正月も

 翌正月。


私(村上義清)「(上杉)輝虎は今年も関東で正月を迎えたのか。」

真田幸隆「はい。」

私(村上義清)「そんなに雪が嫌なのか?」

真田幸隆「それにつきましては輝虎ではありませんのでわかりませんが、状況が状況でありますので。」

私(村上義清)「昨年は(関東管領就任前で)楽しかったのだろうが、今回はそれどころでは無いからな。」

真田幸隆「御意。自分(輝虎)が去った瞬間に(関東公方の足利)藤氏が古河城から逃げ出すのが目に見えていますからね。」

私(村上義清)「出来れば年内に唐沢山を抜いておきたかったのだろうけど。」


 上杉輝虎は関東に入るなり古河城への連絡路を確保するべく上野東部を掌握するのと同時に、北条方になった下野の唐沢山城に兵を展開。攻略に乗り出すも堅牢な城と冬の到来に阻まれ断念。


私(村上義清)「いち国人が輝虎を追い払ったとなると……。」

真田幸隆「古河城内の混乱ぶりは凄まじいものでありましょう。」

私(村上義清)「城内を少しでも落ち着かせるためにも当然輝虎は古河城に入ったのだろう?」

真田幸隆「いえ。上野の拠点厩橋城で年を越した模様であります。」

私(村上義清)「去年の今頃は……。」

真田幸隆「関白様と輝虎が互いに夢を語り合っていたと思われます。わかりませんが。」

春日虎綱「どのような夢だったのでしょうか?」

真田幸隆「さしずめ氏康を討ち果たし関東を掌握。その兵を以て北陸路を通り上洛を果たす。そんなところではないかな?」

春日虎綱「輝虎もそう思っていたのでしょうか?」

私(村上義清)「現実的で無いことは承知していたと思うよ。」

真田幸隆「越中で四苦八苦していますからね。」

私(村上義清)「それにあいつの商売のことを考えると、自らの権力を掌握するために京でいくさをする必要が無い。もっとも将軍や朝廷が蔑ろにされている状況を打破したいとは思っていたとは思うが。」

春日虎綱「関白様はそうでは無かった?」

私(村上義清)「もはや頼りにならない将軍に代わる、自らの安全を確保してくれる勢力が欲しかった。それも三好のようなものでは無く、利他の精神でのみ動くものを。」

春日虎綱「そんな人居ませんね。」

私(村上義清)「輝虎は違った。正確には『その必要が無いから。』ではあるが。」

春日虎綱「このあと輝虎はどうするのでしょうか?」

私(村上義清)「今更氏康を倒すことは出来ない以上、唐沢山を攻略する以外にないだろう。」

真田幸隆「もし殿が輝虎の立場でしたら?」

私(村上義清)「損切りします。」

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