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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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氏康の用兵

真田幸隆「駿河の権益と引き換えに西からの脅威。武田、今川の侵攻を止めることが出来た北条氏康でありましたが、河越城の危機は依然として続いていました。河越城の兵が3千であるのに対し、包囲軍の数は8万。城を守る側であるとは言え、この兵数の差は北条にとって絶望的な状況。」

私(村上義清)「後詰として氏康自ら率いて近付くも。」

真田幸隆「氏康の兵は8千。」

私(村上義清)「……足りないな。」

真田幸隆「まともにやっても勝ち目は無い氏康は、駿河同様。話が通じる相手に和睦を打診します。」

私(村上義清)「ただそれは……。」

真田幸隆「はい。偽りのものであります。しかし、もしそれが本当であったとしても山内上杉憲政は断っていたでしょう。」

私(村上義清)「時間が経てば落ちるのが目に見えているからな……。」

真田幸隆「その後氏康は徹底的に敗れ、既に戦意を喪失している姿を晒し続けます。」

私(村上義清)「『最早いくさは終わった。』『我々の勝利だ。』と敵に信じ込ませるために。」

真田幸隆「はい。上野の知り合いからの話によりますと……。」

私(村上義清)「そうだったな。お前。武田だけでなく、山内上杉にも情報源あるんだよな。」

真田幸隆「なんなら北条にもありますが。」

私(村上義清)「……恐ろしいな。」

真田幸隆「それはさておきまして攻城側では宴が催されました。結構夜の遅い時間まで。武装も解いていた。宴が終わり。皆が寝入ったその時を。」

私(村上義清)「氏康は狙っていた。」

真田幸隆「山内上杉憲政の居る本陣に突っ込んだのでありました。」

私(村上義清)「相手は8万居るとは言え、それは城全体を囲んだ数。各勢力ごとに兵は分かれているため分散している。相手に比べ少ないとは言え氏康は8千の兵を率いている。周囲の様子が分からない。しかも寝入ったばかりの夜中であれば、応援に駆け付けることはまず出来ない。」

真田幸隆「ここで氏康は8千ある兵を4つに分けます。そしてその内の1つは使いません。」

私(村上義清)「何のため?」

真田幸隆「様子を見るためであります。山内上杉との戦いは勿論の事。他の攻城側に動きが見られた時、味方に対し合図を送りましたり、2千の兵でもって応援に駆け付けることが求められていたそうにあります。」

私(村上義清)「残りの3つは?」

真田幸隆「最初に1つ目の部隊が突っ込みそのまま突き抜けます。間髪入れずに2つ目の部隊。続いて3つ目の部隊。再び1つ目の部隊。2つ目の部隊。3つ目の部隊と常に新手を繰り出したそうであります。」

私(村上義清)「とにかく相手に状況の把握をさせない。どれだけの数が居るのか気付かれぬよう、常に新たな兵を投入し続ける。鍛えられているな……。」

真田幸隆「約束事はこの他にもありまして、灯火は使いません。それでは敵味方が分かりませんので、夜でも確認しやすい白の布や紙に目印を着け装備。それでも間違えぬよう合言葉を決めます。何度も繰り返し戦場を行き来することになりますので身なりは軽装。持ち運びに不便が生じる敵の首は取らない。以上の指示のもと決行したとのこと。」

私(村上義清)「氏康は何処に居たのだ?」

真田幸隆「氏康自ら敵陣に突っ込んで行ったとか。」

私(村上義清)「城の方は?」

真田幸隆「氏康と連絡が出来ていたようでありまして、どうやら夜襲をする日が分かっていた模様。城の南で氏康が山内上杉と戦い、山内上杉側が崩れたことを確認した河越城の北条綱成は、まだ状況を把握しきれていない東側の足利晴氏に突っ込みます。」

私(村上義清)「足利は?」

真田幸隆「為す術無く。」

私(村上義清)「連合軍の脆さだな……。」

真田幸隆「最後、深入り気味の氏康の様子を確認した残された1つの部隊からの合図により北条側は無事撤収。山内上杉側は壊滅的な打撃を受け退却。」

私(村上義清)「結果、関東における北条の優位性が確立。今川と北条の仲は良くないとは言え、両者と良好な関係を築いている武田は思う存分信濃へ進出出来るようになった。」

真田幸隆「そうなります。」

私(村上義清)「迷惑な話だな……。」 

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