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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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敵は未明にやってくる

真田幸隆「北条氏康は子の刻に襲い掛かったそうであります。」


 山内上杉など関東の北条を除くほぼ全てとも言える勢力による連合軍に包囲された河越城を救うべく北条氏康が採った策は奇襲。その時間は子の刻。午前0時のこと。人は寝ている間に深い眠りと浅い眠りを何度も繰り返し朝を迎えるのでありますが、その深い眠りの中にあって、より深い睡眠を繰り返すのが眠ってから4時間までの間。このより深い睡眠の時間に何か事件が発生しても中々気付くことは出来ません。一方、盗みなど悪だくみを働く者が活動するのは人の活動が無くなる深夜の時間。午前0時から3時の間。この午前0時からの3時間にやって来る盗人などの襲撃に備えるためにも、より深い睡眠となっている眠ってから4時間の時間を午前0時から3時の間にならないようにする必要があります。

 そのため午後8時までには眠ることにしている。


私(村上義清)「その時山内上杉らはどのような様子だったのだ。」

真田幸隆「完全に眠りに落ちていたそうであります。」

私(村上義清)「包囲しているとは言え敵地のど真ん中でか。」

真田幸隆「はい。北条氏康は山内上杉らを徹底的に油断させる手を打ってきたとのこと。」

私(村上義清)「具体的にはどのような。」

真田幸隆「はい。まず氏康の妹婿で今回山内上杉方で参戦している古河公方足利晴氏に対し、城兵の助命と引き換えに城の明け渡しを打診します。」

私(村上義清)「……妹の婿でも情勢次第で敵に回るのか……。」

真田幸隆「武田と諏訪の例もあります故。続いて同じく上杉方についていた小田政治の家臣菅谷貞次に、河越城城主の北条綱成の助命を依頼すると共に氏康は古河公方への従属を誓います。」

私(村上義清)「それに対し、山内上杉は。」

真田幸隆「これまで幾度となく煮え湯を飲まされてきた北条が、降伏などする筈が無いと拒絶。北条に襲い掛かります。これに対し氏康は戦わずして退却。」

私(村上義清)「『もう争う気はありません。貴方がたに従いますので勘弁して下さい。』と。」

真田幸隆「はい。ここに来て山内上杉も氏康が弱っていると。このままにしておけば河越城は自壊する。それを待っているだけで良い。と安心してしまいました。」

私(村上義清)「氏康はその時を待っていた。」

真田幸隆「御意。」

私(村上義清)「その結果が、さっき来た山内上杉の使者。と言う事か。」

真田幸隆「関東における自らの地位の低下に危機感を覚えたのでありましょう。」

私(村上義清)「あいつが頭を下げに。」

真田幸隆「ええ。」

私(村上義清)「これまで俺らのことを虫けら如く扱っていたあの山内上杉が。」

真田幸隆「世の中何が起こるか分かりませぬな。」

私(村上義清)「でも得になることが無いな……。」

真田幸隆「確かに。連合して何かするには離れ過ぎています。ただ対武田に集中する意味でも東側を安全にしておいて損は無いでしょう。」

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