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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
甲斐の虎

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村上義清のナイトルーティン

 村上義清の夜は早い。

 午後8時には床につくことにしている。

 「年寄りだから?」

とか言わないでおくれ。私が夜の早い時間に寝るのには3つの理由がある。


 1つは電気など存在しない戦国時代において、夜の明かりに油は必須。しかもその油は必ずしも安いものではない。出来れば使わないに越したことはない。

 「それでは仕事が滞ってしまうのでは?」

と思われるかもしれない。それは現代人の思い過ごし。戦国時代にはお金を費やす事無く獲得することの出来る明かりが存在していた。そうお日様の光。時間にして10~15時間。この恵みを有効に使えば仕事を終えることが出来るだろう。そのためにも必要となるのが?そう。朝早くに起きること。スッキリとした気分で仕事を始めるためにも夜は早く眠るに限るのだ。これが理由の1つ。


 2つ目の理由は健康管理。

 「新型ウイルスが存在しない戦国時代にそこまで神経を使わなくても?」

と思っている諸君。浅はかな考えだ。それを今から紹介しよう。現代にあって戦国時代には無いものがある。それは何だと思う?答えは勿論

『ワクチンと言う概念そのものが存在しない。』

と言うことだ。もし私が今。……そうだな。疱瘡を患ったとしよう。戦国時代でそうなった場合。私に処方されるものは次の2つだ。それは『自助』もしくは『祈祷』。前者は無料。後者は有料の違いはあれど、結果的には自分がその疫病に耐えることが出来るか否かにかかっている。故に私は今。夜8時に寝ることにしている。


 ……何が楽しくて戦国大名をしているのだろうか?自分のやりたいことを思う存分やるために権力者を目指しているはずなのに。21世紀の今でこそ、上に立つ者に対する規制や罰則が設けられてはいるけれども、村上義清が居るのは中央政府がほとんど存在しない土地の権力者=その土地の法の時代。常に首を狙われる。周りに気を遣わなければならないとは言え。これでは楽しみと言えるものが何も無い。

 ……自粛生活を経ての転生で良かった。あの時は、自宅で、ある程度の仕事を行うことは出来たけれども印鑑だけはどうすることも出来ず、危険を承知で電車を使って会社へ。とは言え今の電車は良く出来ていて、空調を使えば2、3分。使わなくとも5、6分で空気の入れ替えが可能であること。加えて『自粛要請』。そこから派生した『自粛警察』なるものが効果を発揮したのか。必要な人のみが必要な時だけ利用していたこともあり、ストレスに感じるような密な状態では無かった。街中も同様。ただそうなると心配になるのが今乗った鉄道会社の経営。平素15両にも及ぶ編成が時間10本以上。それも満員で走っていたものが、一両に数人居れば良い方に……。

「別に通勤しなくても仕事が出来るじゃん。」

と言うことを気付かせるきっかけにはなったけれどもその一方、気付いてしまったが故に

「『安泰』と言えるところは一つとして存在しないんだ。」

と言うことを突き付けられることにもなった。勿論今、村上義清になった私が居る戦国時代に比べれば安全なのは言うまでも無いが……。

 仕事が終わったら終わったで立ち寄ろうとした飲み屋も軒並み休業。やっと見つけた開いている店を覗いたら

「ラストオーダーです。」

と言われる始末。

「……じゃあメロンソーダ。」

アルコールを入れる気にもならないよ。

 午後9時台の電車で家路へと向かう緊急事態宣言中の私なのでありました。


 最後、3つ目の理由については幸隆からのレクチャーが……。

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