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旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
統一

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不思議な顔を

真田幸隆「殿。お帰りなさいませ。如何でしたか。」

私(村上義清)「関白に不思議な顔をされた。」

真田幸隆「どのような理由で。」

私(村上義清)「『珍しいですね。今お持ちの官位より下を求められますのは。普通でしたら公卿を目指し活動されると思われるのでありますが……信濃守などで宜しいのでありますか。』と……。」


 村上義清が持っているのは正四位上と左近衛少将(正五位下相当)。このラインから目指すなら従三位と近衛大将。因みに上国信濃守は従五位下相当。


真田幸隆「関白様が佐渡守を求めるようなものですからね。一方の景虎のほうは。」

私(村上義清)「『関東の仕事があります故。越後を開けることも多くなると思われます。その際、隣接する信濃を村上様が管理していただけるのでありましたら喜んで。』と……。」

真田幸隆「それは良かった。」

私(村上義清)「ただ……。」

真田幸隆「どうなされました。」

私(村上義清)「カネはしっかり持って行かれた。」

真田幸隆「今まで払っていなかった分、追徴されたと思えば宜しいのでは。」

私(村上義清)「……にしてもな……。」

真田幸隆「カネのやりとりに無利子無担保など存在しません。それがウン十年も積み重なれば元本を軽く超えてしまうことは自然な事。罪が免除されただけ有難いと思わなければ。」

私(村上義清)「(……身に覚えがない……。)」

真田幸隆「解釈の違いと思って諦めましょう。」

私(村上義清)「(気を取り直して)折角関白様もいる越後に行くのだから、これを売り込んで来た。」


 村上義清が越後並びに関白に売り込んだものは。


真田幸隆「絹ですか……。」


 その年の気温や日照時間に左右され、凶作になることが多い東国におけるコメ栽培。加えて村上義清が領する千曲川流域は水害が多発する地域。コメに頼っていてはいつまで経っても基盤を安定させることが出来ない。そこで活路を見出し名産に育て上げたのが麻織物。ただその原料は越後からの移入に頼らなければならない。自分の地域で出来るものは無いか……。で植え始めたのが水害に左右されにくい桑。これを用い徐々に生産量を伸ばしていったのが絹でありました。ただ……。


真田幸隆「売り先どうします。」


 伝手が無い。


私(村上義清)「そこで相談したんだよ関白様と景虎に。一番気になっていたのが青苧と絹の購買層が被るか否か。ここが被ってしまったら商売敵になるわけだから。幸い『麻は庶民向けであるのに対し、絹は金持ち相手なので問題無いと思います。』との回答。次に聞いたのが完成品で持って行ったほうが良いかどうか。これについては既に『西陣が定着しているので、織るよりは糸で持って行った方がまだ可能性がある。』と……。で、『試しに一回持って行きましょう。』と言う話になった。」

真田幸隆「それはなにより。」

私(村上義清)「ただ……。」

真田幸隆「いかがなされましたか。」

私(村上義清)「『尾州(尾張)産が幅を利かせているぞ。』『あそこは直に商人を送り込んでいることに加え、当主自ら上洛し、市場を管理している。』『簡単にはいかないと思うがそれでも良いか。』と……。」

真田幸隆「上洛ですか……。」

私(村上義清)「景虎から『今回請け負った分は責任持って捌きます。』と一筆もらっているが、次は……。」

真田幸隆「殿と仲が良い金持ちとなりますと……。今川(義元)ぐらいですか。」

私(村上義清)「それこそ『京以外の絹は絹ではない。』と言われるだろうな。」

真田幸隆「まず信濃を落ち着け、他家に侮られないだけの力を付けた上で京に乗り込みましょう。」

私(村上義清)「そうだな。」

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