せっかくの異世界8
ノエル今起きた光景を信じられない思いで見つめていた…。
(あのお嬢様が、俺の料理をあんなに美味しそうに…いや…幻覚か?)
しかし目の前には空になったお皿が確かにある。
「どんなに美味しそうにに作っても…どんなに食材に気をつけても…決して食べきってくれた事なんて無かったお嬢様が…」
先程の食べていた顔を思い浮かべると…頬を膨らましいっぱいに頬張っていた顔が浮かぶ…
「あんなに美味そうに…」
ノエルは首の後ろがくすぐったくなる、ガシガシと頭をかくと…。
「夕食か」
何を作ろうかな…
ノエルは知らず知らずのうちに鼻歌を歌いながら夕食の仕込みに入っていた。
部屋に戻ってくると
「バーバラ…私何か不味いことしたかなぁ…」
アヤカは先程のノエルの態度が気になりバーバラに尋ねる。
「お嬢様は大変可愛らしく食べてましたよ。ノエルさんもお嬢様の可愛らしさに見とれていたんじゃ無いですか?」
バーバラがお茶を入れながらお嬢様の可愛らしさを話していると、あまりの恥ずかしさにアヤカは頬が熱くなる…。
(違う、バーバラは私じゃなくて本当のミリアお嬢様を褒めてるんだから…)
アヤカは自分に言い聞かせるとため息をついた。
アヤカはどうにかみんなを騙しながらお嬢様の代わりを務めていると…とうとう言われていた来客が訪れた。
「いいか…お前達は決して部屋から出るな、何が起きても黙っていろ」
ミゲルは使用人達を集めるとそう言って部屋に閉じ込めた…。
「どういう事でしょう…」
バーバラは心配そうにノエルに聞くと
「わからん…お嬢様が一人で対応するのか?」
ノエルも心配そうに扉を見つめている。
「お嬢様…大丈夫かな…」
「お嬢様なら大丈夫さ」
ノエルとバーバラは不安な気持ちを懸命に抑え込んだ。
トントントン
「お嬢様…失礼致します」
ミゲルさんが扉を開くと、いつもより念入りに磨かれたアヤカがソファーに座っていた。
「ミゲルさん」
アヤカが立ち上がろうとすると…無言で手で制止させられる。
アヤカはコクンと頷くとソファーに座り直した。
「お嬢様、お客様のクランプ様です…」
アヤカは立ち上がるとスカートを掴み頭を下げる。
「初めまして…ハミルトン・ミリアと申します」
顔を上げるとそこには…角が生えた男の人が立っていた…。
(えっ?角?)
アヤカはクランプ様の角をじっと見つめると…
「そんなにこの角が珍しいか?」
忌々しそうな声を出し、アヤカを睨みつける。
「あっ…いえ…かっこいいなと…」
「かっこいいだと…」
クランプはさらに不機嫌になると…
「そこの男…言っていた通りこいつを連れていく。どうしようと構わないんだな!」
「は、はい…契約通りに…」
ミゲルがクランプに頭を下げた。
アヤカは話が見えずにミゲルを見ると…
「お嬢様、すみませんでした。お元気で…」
ミゲルはクランプに頭を下げると、怯えながら逃げるように部屋を出ていく…最後にアヤカを見ると…口の端を引き上げニコッと笑った…。
「えっ?何?どういう事…」
呆気に取られていると、クランプが近づきアヤカの腕を掴んだ。
「しっかり捕まっていろ、お前は今日から俺達の物だ…」
クランプがニヤリと笑うと口から牙が顔を出す…アヤカは…
あっ…八重歯みたいで可愛い…
場違いな事を思ってしまった…その時足ものに魔法陣らしきものが現れる…
「なにこれ!魔法みたい!」
アヤカは興奮すると
「魔法みたいじゃなくて魔法だ、しっかり捕まっていろ」
クランプがアヤカを自分の方に引き寄せると…あっという間に周りの風景が変わった…。
「えっ?」
クランプはアヤカを離すとスタスタと離れて行き…椅子に座っている人の隣に立つ…周りを見るとアヤカを睨みつける様に魔族と思われる人達が並んでいた…。
「えっと…」
アヤカが声を出すと…
「ハミルトン・ミリア…」
(あっ!私のことか!)
「は、はい…」
アヤカが返事をすると…
「お前はハミルトン・ランドルフとの契約により我らの贄となった…」
「ランドルフ?誰それ?」
アヤカには聞き覚えが無かったので首を傾げると
「とぼけるな!お前の父親だろうが!」
アヤカをここに連れてきたクランプが怒鳴ると
「あっそうなんだ…えっ?父親が娘を生贄にしたの!」
アヤカが驚くと…
「そうだ…お前は今日から我らの所有物となる、今までの様に優雅な暮らしが出来ると思うな!使えなければこいつらのエサにしてくれる!」
ぎゃははは!
いいぞー!
美味そうだ…
後ろで魔族達が騒ぎ出す。
(えっ?私魔族の生贄にされたの?お嬢様の代わりをしろって…こういう事だったのか…)
最後に見せたミゲルの笑顔が浮かんでくる…騙されたあなたが悪いのですよ…とでも言っているような鼻につく笑顔…
「やっぱり上手い話には裏があったって…私お金ももらってない!」
アヤカはくっそ!と地面を叩いた!