九話
「七里よ、灯が縁日に行くと言うので暇なら一緒に行ってやってくれないか?」
そんな事をお師匠様に言われた。最近は物騒だから用心棒にな……と頬を掻きながら仰るのだが、私より強いお嬢さんに用心棒が必要なのか?と思っていたら。
「……七里様は遊女殿の用心棒はなさるのに私の用心棒はできないと仰るんですね?」
何故かお嬢さんに睨み付けられ言われたので御断りする事はできなかった。お師匠様にも何か食ってこいと金子を強引に渡されたのでお嬢さんと一緒に出掛けることになった。
「……」
「……」
先を歩くお嬢さんの後をとぼとぼ着いて行く、お師匠様は一緒に行ってこいなどと仰ったがお嬢さんは私の事をお嫌いなのではないかと思っているので困ったことになった、案の定、会話が無い、それに年若い女性にどんなことを言えば良いかなどさっぱりわからない。
付かず離れずの二人はまずはお参りをしてから……屋台を見て回ることにした。
お嬢さんが歩みを止めたのでなにを見ているのか視線を向けたら汁粉の屋台であった。
「……お嬢さん、少し休んでゆきませんか?」
「……七里様がどうしてもと仰るなら……」
お嬢さんは素直でない、ご自分が食べたいのでしょう?などとは言わずたまには甘い物を食べてみたいと言って汁粉を二つ頼む。
「……」
「……ふぅふぅ」
二人並び汁粉を食べながらふと前を見ると目の前に射的の店がある、この店のは弓矢ではなく手で投げる矢を的に投げるもののようだ。
「……七里様?……的当てに興味があるのですか?」
「いえ、私はああいうのは不得手なので……」
「……そうですか、お父様は手裏剣も得意なんですよ」
得手ではないがものは試しと二人で射的の所に行き、投げ矢を選びながらお嬢さんの話を聞いてみれば以前、お師匠様が果たし合いに行った時に相手が密かに忍ばせていた助太刀を手裏剣で打ち倒したことがあるそうだ。それにしても見てきたかのようにお嬢さんが仰るのでなぜ知っているのか聞いたら「飴を買ってやるから一緒に行こう」と言われ出掛けたら果たし合いで、隠れて見ていたそうだ……飴を舐めながら。
本当にお師匠様は……と思っていたら「物盗りだ!」と叫ぶ声がして走り逃げる男が見えた、追い掛けようとしたら隣のお嬢さんが投げた矢が盗人の手に刺さる。盗人が痛みに驚いた所を皆で押さえつけることが出来た。
「……お嬢さん、お見事です」
何でもないことの様な顔をしている灯を見て、やはり親娘だなと七里は思った。
………………
「おう、帰って来たか。すまんな七里よ」
灯を送ってくれた七里に礼を言って帰した後に娘に話し掛ける。
「灯よ、楽しかったか?」
「……普通です」
ぶっきらぼうだが口許が微妙に笑っているので楽しかったのは明らかだ。本当にもう少し愛嬌があれば男が放って置かないだろうになぁ、どうしてこうなったかなぁと秋月は自分がどんな子育てをしたかなぞ棚に上げて思った。