七話
「七里、面白いことになってるな」
秋月は愉快げに言った、それを聞いた七里は困った人だと師を見た。
「ふふ、一人の女の為に二人の男が争う……面白いじゃないか」
あの力士は七里を試してやると宣言し、それを聞いた汐が泣いて力士に止めるようにお願いしたが力士は聞く耳持たず、汐は雪衣太夫にもなんとか力士を説得して欲しいと頼んだが太夫は「七里様なら大丈夫よ」などと七里を信頼しているのか無責任なのかわからないようなことを言われ汐は七里に泣きながら謝ってきた。
「その力士とやらと剣術の試合をするんじゃなかろう?」
そうなのだ、力士は相撲の勝負を挑んできた。
「ふふ、まさに自分の得意な土俵で闘うだな」
面白そうに笑う秋月に向かって傍で聞いていた灯が文句を言う。
「お父様、洒落を言っている場合じゃないですよ?七里様が負けては秋月流の看板に傷がつきます」
「……お前、看板なんて気にしたこともなかろうに……それに七里が負けた方が都合が良いんじゃ……」
秋月と灯がなにやら話していたが秋月が仕方ないと立ち上がり
「七里、それでは今日の稽古は相撲をやろう」
そう言って庭に円を描き諸肌脱ぎになった、七里も仕方ないと諸肌脱ぎになったら灯が顔を赤くしていた。
「よし、それじゃ一稽古つけてやろう」
七里は思った、確かに剣術では秋月師に一度も勝ったことがないが、組み合う相撲なら年若い自分が勝てるのではないか?そう考えながら土俵に立つ。
「ふふ、それじゃ……はっけよい」
七里が勢い良く秋月に向かうと……秋月は体を交わし七里を投げた。
「ふふ、そら……もう一番」
七里は先程の一番を反省し今度は交わされないようににじり寄って行けば今度は秋月が素早く七里の内に飛び込んできて足を払われて転ばされた。
「ふふ、最後に組み合った状態からとってみよう」
そう言って土俵の真ん中で秋月と七里は組み合い、七里は力で組伏せようとしたら……ふっと秋月を押す力が抜けたと思ったら七里は引っくり返っていた、また投げられたのだ。
「……お師匠様は相撲がお得意なんですか?」
そう秋月に尋ねればほとんどやったことないと答える、七里は納得がいかなかったが
「剣だけに頼るようじゃまだまだだな、全ては剣に通ずるし、剣もまた全てに通ずると心得よ」
そう言って汚れた七里に風呂に入って行けと秋月は言った。