六話
七里はいつものように目を瞑り遊廓の御店の片隅に座り待機していたら目の前に誰かが立つ気配がした、目を開けば……目の前に大きな山が現れたのかと錯覚する程大きな男が立っていた。
「……こんな男が太夫の情夫だと言うのか!?」
その大きな男は七里を睨みつけ、そして去っていった。七里は何がなんだか分からなかった。そんな七里に雪衣太夫の禿の汐が申し訳なさそうに話し掛けてきた。
「……七里様、ご、御免なさい」
今にも泣き出しそうな汐にどうしたのだと尋ねたら、どうやら先程の力士に「七里様は雪衣太夫の情夫だ」と言ってしまいその力士が七里の顔を見に来たのだと言う。七里はとんだ誤解だと思ったが泣き出しそうな汐を前に責めるようなことを言うのは可哀想だと思い「気にするな」と言った、陰口を叩かれる位は用心棒の仕事の内だとも思ったのもあった。
しかし、ことはそれだけで終わらなかった。また後日に同じように座っていた七里に例の力士が睨み付けながら話し掛けてきたのだ。
「……おい、七里さんよ……あんた雪衣太夫の男なんだってな……」
否定する間も無く力士は勝手に続ける。
「……調べさせて貰ったが……あんた剣術の腕はたいしたこと無いって聞いたぞ、そんな男がこの店の用心棒だなんておかしかないか?」
七里は内心で剣術の腕のことは情けないと思いつつ頷いた、だが用心棒についてはどうなのだろうと考えた、自分からお願いしたことではないが……そうなのかもしれないと考えていたら
「……七里さんよ、あんたが用心棒の資格があるか俺が確かめてやるよ」
そう笑う力士は獣のような牙を見せた。