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五話


 灯は秋月家の柱である。勿論、家主は父親なのだが、家事を初めおおよその事は齢十七の灯が請け負おっていた。「お父様は剣の事以外は役に立たない」と灯は父に文句を言ったこともあるし、父はそれを聞いて怒るでもなく笑っていた。

 父親は異常な剣士であると気付いたのはいつの事だろう、幼い灯を背負って何処ぞの誰かと斬り合いをしていたのが最古の記憶である、この記憶は夢でないかと父に聞いたら「そんなこともあったなぁ」と普通に答えられたので呆れたものだ。物心ついたときにはこれが普通であった為につい最近まで父親の異常さに気づかなかった、ある意味似たもの親娘である。

 父親は若い頃は道場を訪ねては破り、また次の道場に……そんな生活を繰り返していたらしいのだがある日訪れた道場で打ち勝った男に良ければ泊まっていけと言われ「夜に数人で俺を囲み、なぶり殺しにしようとしてるのか?面白い!」と蒲団に入って待っていたら……訪れてきたのが私の母らしい。

 そうしてできたのがお前だと言われた時、母との馴れ初めを聞いた灯は少し後悔した。

 それでも情はあったのだろう、父はそのまま母ときちんと結ばれ祖父の道場を貰い受け「秋月流」の道場を持つことになった。

 母はそんなに身体が強くなかったようで私が生まれてすぐに亡くなり、祖父も母が亡くなってから後を追うように亡くなって……父親と娘二人っきりの生活が始まった。

 灯は父親の剣を一番近くで一番長く見ているのは間違いない、その上、何故か父親は女の灯に剣を持たせ教えた。幼い灯はそれを異常な事だとは思わず受け入れ……今となっては並みの男には負けない程の腕前になっていた。

 父親は何人かを弟子にしたことがあるがおおよそ長続きせずに辞めて行く、長続きした者で一年半だ。父親は道場経営者としては向いていない、いつも弟子と試合をして手も足も出ぬ弟子を一方的に打ち据えているのではなく、たまには弟子に打たれて褒めてやらねば成り立たないと灯は思う。道場の方はそんな有り様だが何処からか金を稼いでくるので父の道場についてあれこれ口出しはせずにいた。

 そんな秋月流の道場には今現在は二人の門弟がいる、父が何処で見付けてきたのか知らないがある日連れてきた七里と、父に挑んで負けてそのまま弟子入りした松風だ。

 父親が七里を連れてきた時にはどんな腕前の剣士なんだろうと期待したのだが父どころか父が試しにと試合させた灯にも容易く負けるほど弱かった、才能がないのだと言う父の言葉に納得するほどだった。父親が何故に七里を連れてきた来たのか灯には最初は分からなかった。

 そんな七里なのだが腐りもせず毎日のように真面目に剣に取り組む姿勢は好感が持てた。

 そして、一月程過ぎた頃に再び父が灯に七里と試合するように命じた。灯はこの短い時間で何が変わるのだろうと嘗めてかかったが……驚いた、明らかに上達しているのだ。それでも灯は「負けることは無い」と思いつつ七里の剣筋を観察していると前回の灯との対戦で打たれた剣筋にきちんと対応する、つまり一月前の敗けを反省しきちんと活かしているのだ。

 それでも灯が難なく七里を打ち据え、とぼとぼと七里が帰った後に、灯は父親に七里について思ったことを話してみたら晩酌でほろ酔いの父は嬉しそうに語るのだった。


 「ふふ、面白い奴だろう?才能は全くと言って良いほど無いのだが……真面目に剣に向き合っている」


 灯が頷くと父親は更に語る。


 「……俺はな、生まれつき剣が人より上手だった……負け知らずさ、いや、自慢話じゃないぞ?……それでもな、もう四十だ……全盛期というものを考えたらこれから衰えていくのが普通だろう?ふふ、それでも誰にも負ける気はしないが……全盛期の自分(・・・・・・)と対峙したら負けるんじゃないかと以前は思っていたのだけどな……七里を見てるとな、あの才能の無い剣士がどんなに自分の才能の無さを思い知らされても諦めず日々研鑽する姿を見せられて……俺も昨日の自分、全盛期の自分に負けてられないなと……思わせてくれるのさ」


 そう語る父親は少し照れているようだった。その日以来、灯は七里を意識するようになった。

 

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