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一話


 「イヤァァァァァ!!」


 気合いを込めて振りかざした木刀を師匠は軽く交わし叩き落とす。木刀を落とした手の痺れを感じた一瞬に……頭にコツンと師匠の木刀が触れる。


 「ほい、終わり」


 今日もいつものように師匠の屋敷の庭で稽古をつけてもらうが……一本どころか……かすった事すら無い。


 「ふふふ、相変わらず才能が無いなぁ」


 ……嬉しそうに笑いながら言うこの台詞もいつも通りだ……


 「……お師匠様、ありがとうございました」


 「あぁ、これから仕事か?」


 「はい、行って参ります」


 師匠に挨拶する、師匠は着流しで右手に持った木刀を肩に担いで笑っている、師匠はもう四十を越えていらっしゃるのだが見た目はまだ二十半ばに見えるくらい若々しい。


 今日もかすりもしなかった事に少し落ち込みつつ仕事に向かおうとしたら、師匠のお嬢さんとすれ違う。


 「お嬢さん、こ、こんにちは……し、失礼します」


 「……いつも通りまた負けたんでしょ?才能ないなら辞めたら良いんじゃない?」


 「……いえ、辞めません」


 「……これからまたあの仕事(・・・・)?」


 「……はい、行ってきます」


 「ふん、助平!」


 ……お嬢さんは冷たい眼で私を睨んで去っていく……やはり剣の才能が無い、師匠どころか弟弟子やお嬢さんにまで勝てないような男がいつまでも師匠の側で剣を指導して頂き、一人前の剣士になりたいという願望にしがみつくなんて……お嬢さんはそんな私をみっともないと思うんだろう……仕方ないことだ。


 とぼとぼと歩いていたら弟弟子が向こうから歩いてきて話し掛けてきた。


 「七里(しちり)さん、これから遊びに行きません?」


 「……いや、これから仕事だから……」


 弟弟子はそれを聞いて微妙な顔をする。


 「……まだ続けてるんですか?あの時は私と師匠が悪かったからもうあの仕事は辞めません?……お嬢さんに私と師匠が怒られるんですから」


 最後は何て言ったか聞こえなかったけど……心配してくれてるのかな?……そうだよな、自分みたいに弱い剣士じゃ役に立たないだろうと思うのは仕方ないことだ。それでも……


 「……役に立たずかもしれないけど、頼まれた仕事だから一所懸命務めて来るよ」


 「……そういう意味で辞めたらって言ったんじゃないんだけどな……ま、頑張って来てください」


 弟弟子と別れ、向かった先は……遊廓だ。


 中でも一番大きな御店に裏口からいつものように挨拶して入り、片隅に座る、私はこの店の用心棒として雇われている。


 目を瞑り今日の師匠との模擬戦を振り返る、どうしたら少しでも師匠に近づけるか考えていたら……


 「……七里様、花魁がお呼びです」


 少女が声をかけてきた、花魁のお世話をする禿だ。


 「……わかりました」


 禿について行き花魁のいる部屋に、座ってこちらを見る花魁を微かに見たら……相変わらず美しく目を合わすことなんてとてもできない。


 「……どうも」


 「……ふぅ、呼ばないと挨拶にも来てくださらないなんて……いけず」


 「……そんな軽々しく花魁の所に行けませんよ」


 「……雇い主の所に挨拶くらい来てもバチは当たりませんよ」


 花魁は呆れたように言ったあとに


 「……七里様、一人前の剣士になれましたか?」


 「……そんな簡単になれませんよ」


 「……お約束……忘れてませんよ?」


 ……またそんなことを言って私をからかって……


 「……そうですね、いつか叶うと良いですね」


 そう答えたら花魁は嬉しそうに「それではまた顔を出してくださいね?」って言ったので退出してまた先程の様に黙って座っていた。


 ……今日も何事もなく夜が更けやがて朝になり帰宅する。


 長屋に戻って休む前に少し木刀を振り身体を動かす……自分の才能の無さに情けなくなってくるが自分にはこの生き方しかできない、憧れた師匠のような剣士になりたいと……木刀を振る。


 毎日の日課を終えて汗を濡れ手拭いで拭き、蒲団に入る、いつになれば一人前の剣士になれるのだろうと思いながら。




 


 


 


 


 

 

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