物語弐-1
物語 第二
璃枝が去ったと判ったのは、明朝の朝食の席だった。
知った者の反応は様々ではあったが、領主の反応は静かなものだった。
寧ろよく今までじっとしていたと思う、とそう零したきり、何も言わなかった。黙々と朝食を平らげて執務室へと向かう。
領主夫人、つまり璃枝の母はというと、いつかやると思っていたけれど、早かったわねえと、夫とはある意味で正反対の感想を述べた。
侍女や給仕の者たちは、何を呑気な、と口々に言ったが、夫人にはにこにこと笑って躱され、領主には黙殺される。
正常な反応――というか心配を態度にしたのは、琳狗だけだった。
警備の目をすり抜けて出奔した娘を当然のように受け入れるのはやめてくれ!
そう叫びたくなるのを堪えて、琳狗は別のことを叫んだ。
「女の一人旅なんて姉さんは何を考えてるんだ……!」
ただ、誰ひとりとして、璃枝が絶望して自決をしたかもしれない、とは露とも思わなかった。つい二日前には、早まらないで、と姉に忠告した琳狗でさえも。
書き置きのひとつもなかったのに、それだけは邸中の全員が確信していた。
璃枝は、琥城を追って行ったのだと。