18:30〜18:45
注文したメニューが来たらしい。後ろからカチャカチャと食器の音が聞こえてくる。
『……よいしょ』
ドリンクバーに立つついでに机を覗いてみると、テーブルの中心にエスカルゴが置いてあった。頼んだのかよ。
────────────────────────
────────────────────────
『呼び方のせいで不味そうなんだよなぁ……』
いまいち腑に落ちない気持ちを抱えながらドリンクバーへと向かう。そうしてホットココアを注いでいると、入り口の扉から冷たい風が流れ込んできた。
お客さんか。視線がそちらの方へと向かう。
『……』
そこには小学校高学年くらいの、利発そうな顔立ちの女の子が立っていた。身長こそ小さくて子供らしいが、纏う雰囲気は大人びている。
そこへ店員がすぐさま駆け寄る。子供一人での来店を訝しんでいるのか、足取りにわずか躊躇いを感じた。
ここからだと店員と女の子の会話は距離的に聞こえない。しかし、子供3人の会話を盗み聞きしていた俺は大体何を話しているか想像がついた。
「1名様ですか?」「いえ、先に友人が来ているはずです」大方、そんな所だろう。そして少女は視線を店内いっぱいに向け、何かを見つけたらしく迷い無い足取りでとある場所へと歩き出した。
その少女を追うように、俺も自分の戻るべき場所へと戻る。
────────────────────────
「全然気にして無いよ〜、だから謝罪の気持ちを込めて料理代を出すとかしなくて良いからね?」
「あっ、汚いで思い出したんだけど、あすかちゃん誕生日おめでとう」
────────────────────────
『……』
女の子が一人増えたところで、会話のベクトルは特に変わらないらしい。女子小学生ってもっとキャッキャしてるイメージなんだが。
……しかし最近の子供、語彙力豊富だな。
────────────────────────
「この店頼んだもの来るの早いから、今からでも頼めばすぐ来るよ」
「カタツムリの事ヤドカリナメクジって言ってんの? キモくない?」
「キモいで思い出したんだけどうちのお父さんキモいを『気持ち良い』の略だと勘違いしててお風呂入るたび『あ〜キモい〜』って言ってて超面白いよ」
────────────────────────
「そうだ!全員揃ったしみんなでドリンクバー混ぜて遊ぼうよ!」
「大きな声で言うことじゃないし、持ってきたら絶対責任持って飲みなさいよ」
「ココアとコーラとジャスミンティーと昆布茶を混ぜると美味しいんだよね……」
────────────────────────
『……』
人数が増えたせいで、またうるさくなった。だがむしろ、より会話が興味深くなったと言える。
俺はこれからの会話を想像しながら、淹れてきたココアを口に運んだ。
「あっち!」
ホットココアの熱さを忘れ勢いよく飲み込んだ俺は思わず叫ぶ。
『……』
店員と目があったため、しょぼい苦笑いを作り会釈して目をそらした。……普通に大声出たんだけど。
あと後ろの席から「あっち!」「こら、真似しないの」という声が聞こえて来て死にたくなった。