17:45〜18:00
家族へ宛てたメッセージには早くも既読が付き、「了解」と可愛い動物がオーケーサインを出すスタンプが貼り付けられた。
これで大手を振ってファミレスに滞在できる。
私は店員にセットメニューとサラダを注文し、背もたれに深く腰掛けた。すると相変わらず、背後から元気で良く通る声が耳に届いてくる。
────────────────────────
────────────────────────
『……』
SNSか。俺が子どもの時にはそんなものは無かった。
プライバシーが他人に覗かれることに抵抗がないのも、今の子供の特徴なのだろうか。
『……』
最近の子供はSNSにどんな投稿をしているのだろう。別にそんなに気にはならないが、参考までに知りたい気もする。
私は水を取りに行くフリをして、少女のスマホ画面を覗き見る。残念ながらSNSを開いておらず、中身は見えなかった。
『……』
あれ? 今の俺ってもしかしてキモいん?
そんなわけない。嫁も子供もいる俺が、キモいわけないし。
そんなことを考えながらドリンクバーでブラックコーヒーを注ぎ、再び席に戻る。その際、別に興味はないけど念のためもう一度だけ少女のスマホを覗き見た。
今度は間が良かったらしく、せらと呼ばれていた女の子がツイッターを開いていた。アカウントIDが目に入ったので、すかさず暗記する。
自席に戻るやいなや、忘れる前にそれを検索、するとすぐにアカウントが出てきた。やった。
────────────────────────
パピコの捨てる部分に付いてくるアイスの端くれ程度の価値の女
────────────────────────
『もっとなんかあっただろ』
心の中だけで小言を言う。
アカウント名尖りすぎか。この手の気取ったアカウント名は、高校生か大学生になってからで良いんだよ。
それとも、最近の小学生はステレオタイプな子供とは一線を画す存在なのだろうか。自分の顔をアイコンにするのも理解できない。ネットに顔出しなんて、俺なら怖くてできない。
わずかな疑念を感じながら、俺はツイートと書かれた部分へと目を向けた。
ちなみにツイートとはその人がネットに書き込んだ文章やら画像やらが表示されている場所であり、さながら短めの日記と言った様相を呈している。
さて、いったいこの子はどんな投稿を行っているのだろう。
────────────────────────
パピコの捨てる部分に付いてくるアイスの端くれ程度の価値の女
パスタ食べた!
────────────────────────
『爆発してんのか』
ビックリした。小動物が破裂したグロ画像かと思ったわ。写真撮るの下手だな……。
あと、料理の写真なら食べ終わった後撮るのは絶対違うだろ。もっとまともな投稿はないのか……。
────────────────────────
パピコの捨てる部分に付いてくるアイスの端くれ程度の価値の女
ソフトクリーム食べました!
────────────────────────
『時空が歪んでんぞ』
ソフトクリームに吸い込まれた人が最後に見る景色。
────────────────────────
パピコの捨てる部分に付いてくるアイスの端くれ程度の価値の女
パンケーキ食べた! ふわふわでかわいい〜
────────────────────────
『疾走感!』
パンケーキと戦闘が始まったの?
『もっと、普通の投稿はないのか……?』
画面をスクロールして、より古い投稿へと目を向ける。
────────────────────────
パピコの捨てる部分に付いてくるアイスの端くれ程度の価値の女
通り魔の侍と化したジョイマン「いきなり出てきて切り捨てごめ〜ん」
────────────────────────
『急にツイッターっぽいことすんな』
でもこれは、小学生のツイートではないだろ。
一気に気疲れした俺はソファ型の座席へともたれかかった。そもそもIDからして何なんだよ。何で死んでんの?
今時の子供、会話どころかSNSさえも分からん。
『……』
それにしても、遅れてくる子はどんな子なのだろう。