『……』
時刻は午後7時半。気づけば入店してから2時間が経過していた。
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「はいはい! 私、セールスマンやりたい!」
「セールスマン? ノルマのクリアとか結構大変よー」
「ノルマクリアに失敗すると、もう一曲遊べなくなっちゃうしね」
「太鼓の達人の話はしてないわよ」
「でもせらちゃん……物売ったりできるの?」
「確かに、テクニックの要る仕事とか向いてなさそう」
「お年寄りに不要な電子機器を売りつければ楽勝だよ!」
『儲け方がこっすいな』
「というわけで、あすかちゃんお客さんやって」
「若者役で良ければね」
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「こんにちわー。セールスでーす」
「すみません、セールスはお断りです」


「これ強盗だろ」
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「こんにちわー。セールスでーす」
「お断りでーす」
「なんと100人に90人が実感してます!」
「何をか言ってよ」
「通常1万円の所を、今ならなんと0円!」
「減り幅がバグじゃん」
『スマホに出てくる怪しい広告かよ』
「なんか怖いので帰って下さい」
「少しだけで良いのでお願いしますよー」
「全く興味がないので帰って下さい」
「大丈夫、ちょっとだけ試してみようよ。すぐにやめられるよ。みんなやってるよ。1回だけなら平気だよ。痩せられるよ」
『薬物乱用の入り口マシンガン』
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「次私ね〜」
「もうセールスは良いわよ」
「こんにちわー。セールスでーす」
「……」
「こんにちわー」
「……」
「こんにちわー?」
「……」
『まぁ、リアルだと出てきてさえもらえないのが大半か』
「……よし。誰もいないな」

「そういう手口の泥棒かよ」
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「次は……私」
「ゆりねちゃんは押しが弱いから無理じゃない?」
「セールスはもう良いって」
「こんにちわー……」
「……」
「……こんにちわー」
「……」
「こんにちわー。市役所の者でーす」
『このご時世に悪質すぎる』


「結局強盗かよ」
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「……というか、物を売りたいならもっと、知恵が重要かも」
「知恵かぁ」
「そうね。例えば便乗商法とか」
「便乗商法?」
「例えば受験シーズンのキットカットに「きっと勝つ」って書かれてたり、カールに「受カール」って書かれてたり。そういう、モノを売るための足掻きも必要って事だよ」
『企業努力を足掻きって言うな』
「確かにそうよね。例えば6月の花嫁は幸せになれるって意味のジューンブライド、あれって梅雨どきの6月に結婚式の予約が減るのを防ぐためにブライダル業界が流行らせた言葉って言われてるし、年越し蕎麦とか恵方巻きとか、そういう何かを買わせる系統の慣習は全部、マーケティングの結果だと言われてるしね」
『※諸説あります』
「屁理屈の擬人化だ……」
「今北産業」

「話が
長い
女」
「やめてよ」
「サイコパス」
「コミュニケーションの墓場」
「犬を1個2個って数えてそう」
「罵倒マラソン二周目行かないで」
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「でも確かに、最近の便乗売りって無理あるの多いよね。この前『麩を購入して、ふこうを蹴散らそう!』って宣伝見たけど『ふをこうにゅう』したら『ふこう』を手に入れてる気がするし」
「となると、そういう便乗も無理があるのかぁ……」
「あとはなにか印象に残るような、殺し文句みたいなのがあれば良いんじゃない?」
「うーん、買わないと殺すぞ?」
「違う」


「違う言ってんでしょ」
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『……』
少なくとも、この子達が悪質なセールスに騙されることは無さそうだ。